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京町家再生研究会

京都の景観に係る建築学会の取り組み

大谷孝彦(再生研究会理事長) 
 新年度を迎え、京町家ネットの新たな活動が展開される。昨年度は京都市の新景観政策が実施されるなど、町家を取り巻く状況も大きく変わってきた。その様な状況下、京町家ネットの活動もネットワークが有効に機能を果たしている。今後、他組織との連携の効果がより期待される中で、建築学会の京都の景観に係る取り組みにも注意を向けてみたい。
 日本建築学会は研究者が主たる会員であり、日頃、一般とは直接的な係わりが薄いと思われがちであるが、最近はその研究や活動が開かれたものとなり、社会にその成果を示し、活用されることが求められている。ここ数年、京都の都市景観についての継続した研究が行われ、学会員以外の市民が参画する場もあった。ここで景観と関連した最近の建築学会の活動を紹介してみたい。

 平成10年から4年間、多くの研究者が参加し、「京都の都市景観特別研究委員会」が実施され、京都の都市景観の創造的再生に関する調査研究が行われた。その委員会の中には、4つの小委員会があり、生活や技術は景観を形成するための重要な要素であるとの観点から「生活と景観」、「技術と景観」小委員会が取り入れられた。従来の建物外観のみの景観からの大きな変革といえる。この折、両小委員会を中心として、町家の住み手、職人などの立場で京町家ネットのメンバーがワーキングに参画、暮らしや技の資料を提供し、また、議論に参加した。引き続き、平成15年から3年間に渡り、景観への取り組み実践に向けて、「京都の都市景観の再生特別調査委員会」が実施され、それぞれの委員会後に第1次、第2次の提言が出された。これらの提言は京都市長にも直接手渡され、その後の市の景観施策展開にも影響を与えている。
 その間、平成16年には景観法が施行され、京都市においては「時を超え光輝く京都の都市景観づくり審議会」の答申を経て、平成18年9月には新景観政策が実施されることとなった。
 第一次提言の内容は、ナショナルプロジェクトとしての京都の都市景観創造的再生。京都の都市景観のデザイン原理の解明。都市景観を育む生活・文化の継承と教育。都市景観を支える技術の継承と開発。市民のイニシアティブを活かした都市景観デザインの推進。京都景観センターの設置。急速に進む景観・環境破壊に対する緊急提言、である。

 また、景観政策の実践に向けて出された第二次提言にはグランドデザインの再構築、景観評価システムの確立、景観阻害建造物等の再生・撤去 などが補充されている。両提言とも学会という幅広い視点からの内容となっているが、特に京町家ネットとしての関心が強い「都市景観を支える技術の継承と開発」の具体的方策として、伝統的建築である町家に関しては以下がある。
歴史性の創造的継承をアイデンティティーとして共有
──創造性と秩序性ある景観の形成を目指す。
売買・賃貸の情報流通手段と賃貸借契約のしくみの整備
──流通促進、有効活用、修復再生の活性化。
構造特性の究明とその構造特性に適した設計、修復再生
──構造補強手法の合法的な整備・確立。
修復再生に適した施工技術の継承と素材の確保
──資源循環型の建築生産システムの体系化の推進。
設計者の伝統的建築の修復再生のトータルコーディネーターとしての
役割の自覚と実行。

 これらはまさに京町家ネットが具体的に取り組んでいる活動であり、トータルコーディネーターは京町家ネットに課せられた役割であろう。
 また、第二次提言においては、「行政、研究機関、関連学協会・職能団体等は、伝統技術を継承すると共に、現代科学技術の視点を導入して、魅力的な都市景観を実現する技術を再構築するために協力して努力すべきである」とある。ここにある「現代科学技術の視点」については京町家ネットとしては関心の大きなところであり、今後の議論となるところであろう。
 そして、平成19年の秋から「京都の都市景観創生特別委員会」が始まり、京都市の新景観政策の着実な推進に向け、京都市が取り組むべき方策に関する基礎調査の実施を目的とし、「京都の都市景観のグランドデザイン」と「景観デザイン評価」を主題としている。
 このように京都の都市景観に係る建築学会の研究委員会が継続し、その都度、提言が行われ、京都市の景観政策の展開にも大きな影響を与えている。その内容は当然、京都の景観の根拠である町家、そして歴史を踏まえたくらしや技に係わる。我々の今後の活動は個々の実践を大切にしながらも、より広い視野と思考領域をもち、建築学会の活動にも関心を強くし、町家に係る種々の問題を積極的に投げかけていくべきであろう。

2008.5.1