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京町家再生研究会

京町家と火災──変わる火災原因

宗田 好史(再生研幹事/京都府立大学) 
 全国で住宅用火災警報器設置の法的義務付により、自動火災報知器のシステムが京都の町家でも導入が進んでいる。一方、全国的にみると住宅火災発火原因は変った。今では、コンロ20%、煙草12%、電気器具11%、ストーブ6%で、死者が出た火災では、煙草の不始末・寝煙草21%、ストーブ11%、コンロ7%である。昔は、煙突からの出火が多く、60年代までは風呂・竈・炬燵が上位を占めていた。家の中で炭や薪を燃やし、火の粉がとんで町内に延焼したのである。これが激減、今のストーブやコンロは安全になった。
 ちなみに、建築関係者が多い京町家ネットは別だが、禁煙も進んだ。JTの喫煙率調査によると1966年に成人男性の83.7%だった喫煙者が、2005年には45.8%と半減。これでも日本の喫煙率は先進国中異常に高く、今後15年間に20%にまで下がると言われる。喫煙は高年齢層に高いからである。その分、寝煙草火災も減るだろう。

 しかし、1990年以降は放火が増えた。また、76歳以上の死者は全火災死者数の36%になる。京都市消防統計でも、体の不自由な独居高齢者の被災事例は多い。ご高齢の方は、古い器具を大切に使い続ける。これが危険である。簡単に捨てるは憚られるが、高齢社会では、長く使うのは考えものだ。家ですら30年の寿命が当たり前、家電の多くはもっと短い寿命で設計されている。だから、永く使い続ける町家では、手入れを繰り返しつつ、老いてゆく器具を惜しみつつ捨てる習慣が必要である。

 2006年京都市の火災による死者は21人で、放火自殺者の5人を除く16人のうち高齢者の死者は12人、75%と全国より高い。2007年の死者は22人に増えた。火災原因は、放火が35%と最も多く、次がちょっと減った煙草が18%、天ぷらなべなど調理用コンロは17%で増えている。ストーブと漏電が7〜9%ずつと、やはり危険である。京都は政令市の中では比較的火災は少ないが、都心4区でも2006年に57件の火災が起き、2名の死者16名の負傷者が出た。町家・長屋に高齢者が多くお住まいではあるが、学区単位の統計で調べても町家が多ければ出火件数が多いわけではない。むしろその逆だ。しかし高齢一人暮らし世帯の増加が心配である。火災報知機設置で人命が救いやすくなることが期待されるが、調理・暖房設備の点検も忘れてはならない。
 家で料理する機会は近年急速に減少した。冷蔵庫と電子レンジだけの家も増えたという。マンションでもあるまいし、町家の住民はそうはいかないだろうが、住宅設備と火災原因の今昔をみると、裸火が極端に減った現在、市街地で木造を制限する考え方を見直すことも考えられる。例えば、木造住宅の防火対策は裸火厳禁を徹底する。すでに条例で都心街路は禁煙、都心では罰金が取られる通りもある。だから次は町家内の全面禁煙、これは今でも大多数の支持がえられるだろう。再生研の例会、幹事会も全面禁煙になった。配線の更新は作事組の仕事、コンロの電化など安全対策は電力会社が強力に支援している。暖房、給湯設備は安全性が高い。環境対策が進めば、よりクリーンで安全なエネルギー源も登場するだろう。専門家の議論に期待するが、火災報知器と住民の防災活動の取組みに加え、町家内部の安全性を点検しつつ、丁寧に改善することで変わることは多いと思う。

 一方、心配なのは、増え続ける町家飲食店である。店では火を使う。消防の指導もあるが、経営者の自覚に寄る所が大きく、防火が不十分な改装例も見られる。消防局と協議して、丸適マークの認証など、商工会議所の京町家はんなり会などの関係団体の組織的な取組みも必要である。また、国民生活金融公庫の生活環境改善貸付などの低利資金での支援も進めたい。
 京都では、学区消防団に組織された自主防災活動が活発である。今も防災診断を含む「防災行動計画づくり」が進み、必要な器材と訓練を各所に準備している。しかし、地域社会は日々変わる。2008年現在、京都市全体で1世帯あたりの平均人員は2.19、独居世帯が全市41%、下京、中京の両区は50%を超えた。都心人口は急速に回復したが、新住民も新事業者も地域活動にはあまり参加しない。だから町家や長屋の住民は孤立する傾向にある。

 この10月から再び京町家調査が始まった。京町家ネットも協力し、今回は全市域を調査する。今回の調査では、防災にも眼を配りたい。もし、ご高齢の住民と接する機会があれば、一声、古い器具はありませんかと尋ねてみたい。これまでも京町家相談を重ねてきたが、放火、煙草、老朽コンロや暖房器具、漏電の順で火災が多いこともお知らせしたい。その防ぎ方の知恵を出すことも京町家再生の柱の一つに挙げなければならない。
20 08.11.1