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京町家再生研究会

アメリカに学ぶ歴史的住宅保存の手法 ──N.Y.でのシンポに参加して

大谷孝彦(再生研理事長) 
 ニューヨークで開催されたシンポジウムに参加した。目的は、先進的な活動をしてこられたニューヨークのメンバーとの意見交換を通じた、京都の町家の継続的な保全・再生活動の構築である。特に、資金支援に係わるファンドの活性化が一つの具体的な課題であった。私は二つの円卓会議に参加し、かつ、最後のシンポジウムにも会場参加した。円卓会議のテーマは「米国における歴史的建造物保存運動の発展と哲学」「歴史保存のための資金調達」である。アメリカ側参加者は、WMFワールド・モニュメント・ファンド理事長を初め、多方面を代表する多士済済の顔ぶれである。全体を通じ、熱意を持って自ら進行役をされたWMF理事長ボニー・バーナム女史は非常に気使いの優しい方でありながら、WMFという大きな活動を主導されており、そのたくましさには大きな魅力を感じた。WMFの対象は、本来、大型建造物の保存が主であろうが、小規模の建物で人が個人的に住まう建物である町家にも、今後の基本的な協力が頂けそうだ。
 今回の主目的は、景観まちづくりファンドの拡大に関して、寄付に対する税制優遇の問題を考えることがある。「米国では税制優遇措置により保全を推進している。日本でも税制優遇措置が歴史的建造物の保全のインセンティブとなり得る。そして、保存に関する資金調達には国レベルでの関与が必要である」という意見があったが、日本においては建物の公共性などの面から、一般的な町家、あるいは、ファンドに対する寄付への税制面の優遇がない。ファンドについては、京都市景観・まちづくりセンターが特定の法人になることによって寄付に対する税制優遇組織となる可能性はあるが、そのハードルは高い。美しい国づくりを目指す国家の方針として積極的な考えを早急に持つべきである。
 寄付については、もと精肉業の問屋街であったグリニッチ・ビレッジの事例が目を引く。焼印ロゴのTシャツなど、関心を惹くキャンペーンを展開し、政府資金の獲得、その他からの資金集め、ゾーニングの変更、史跡指定を実現し、外観を保存した古い町並みのなかでショッピングができる商業地になった事例であり、「具体的なプログラムに対する資金調達は目的が明確で説得しやすい」(史跡保存地区審議会)とのことだ。寄付する側は、自分たちが変化を起こす刺激を与えたことに対する成果、自分たちの働きかけがきっかけとなり、地場が盛り上がってくる結果を見たいと考えている(WMF)。史跡保存に対する投資によって、企業・団体はイメージを高めたいという動機があり、明確な数値としての経済効果を説得材料として使わないといけない(ナショナル・トラスト)。これらは、寄付を単に篤志的な動機だけによるのではなく、もう少し現実性の中で捉えておく必要があるという指摘である。また、資金補助について、自らの意思と努力で用意した自己資金に見合った金額を補助するというしくみ。これは保存・再生の意識を高め、明確にする上で有効な考え方である。
 コミュニティーが責任を持って、政府に対して訴えるきっかけを作った、草の根のボトムアップ的活動である「ペンシルベニア駅」保存では、主体性を持った地元と政府が連携することによって、持続可能性のある結果を実現した。これは活動のしくみ、組織の問題である。ナショナル・トラストの場合、歴史的保存に関心のある人が集まり組織を作ることによって、物件の所有や啓蒙活動、さらに国とのコミットが可能になったという。我々、京町家ネットも有機的な連携組織として活動を展開し、また、他の組織や市民、あるいは行政とも連携を取りながら活動展開を図っているところであるが、まだまだ及ばないところである。
 保存・再生のアピールの手法については、まず、居住する人、自らのアピールが大事であること。そして、ロックフェラー財団やアメックス財団などが、「町家には価値がある」と外から発言することで日本の世論を高める効果につながる可能性がある。町家をhouse(物件)でなく、home(住むところ)とすれば価値が高まるのではないかという意見については、我々も町家を建物と暮らしを含めたものとして捉えているところである。
 全体を通じての印象は、歴史的建造物としての町家の保全・再生ついては同じような理念と取り組みのしくみはあるが、そのスケールやエネルギーについては、NYが圧倒的に大きいということである。日本は行政、民間共に、その組織、資金などがまことにささやかである。今後、まず住み手や市民の意識向上が第一であるが、企業や国の参画が本格的に進まなければならない。教えられるところがあるNY訪問であった。今後の継続的交流、また交流の拡大は、京都の町家保全・再生にとって大変有意義なことであると思われる。
20 09.1.1