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京町家再生研究会

認定NPOへの課題──これからの再生研の活動を考える

丹羽結花(再生研理事)
 平成24年4月施行の特定非営利活動促進法改正により、再生研の所轄庁が京都府から京都市へ変更となった。また、認定NPOをめぐる状況も変わった。法改正の主旨は広く市民に支えられる組織を理想としたものであるが、以下、認定申請に関する課題およびそれにともなう再生研の今後の活動に関する問題点を整理したい。

 平成25年4月定時総会並びに12月臨時総会では上記改正にともなう要件の変更ならびに認定申請の準備として、定款変更及び役員改選をおこなった。認定NPOとは、所轄庁が共益性を備えている組織であると「認定」したNPO法人である。そこへ寄付をおこなう場合、寄付者の個人住民税が寄付金控除の対象になる。NPO法人側に直接のメリットがあるのではなく、結果的に寄付を受けやすくなるというわけである。認定を受けるためにNPO法人としては、さまざまな基準をクリアし、適正な活動報告をおこなわなければならない。法改正以前は国税庁にあった権限が所轄庁、つまり京都市におり、いくつかの基準が緩和されたため、認定申請のハードルが低くなってきた、というのが現況である。

 認定のさまざまな基準のうち、パブリック・サポート・テストに適合することが最重要である(注1)。従来は、(1)相対値基準として、経常収入金額に占める寄附金等収入金額の割合が5分の1以上である、というかなり厳しいものであった。法改正により(2)絶対値基準と(3)都道府県または市町村の個別条例による指定が追加された。(2)は各事業年度に3000円以上の寄附金を平均100人以上から受けていることであり、改正以後、認定を受けた組織の多くがこの要件を活用している。(3)について、京都市では市民からどのように支持されているかを示すため、二つの条件を提示している。第1は年間50人以上かつ15万円以上の寄付実績があること、第2はボランティアスタッフやインターンシップ研修及びそれに準じる研修の受け入れ実績が年間のべ200時間以上になることであり、お金の代わりに実務ではかる基準といえよう。どちらかを満たせばよいのだが、定例の幹事会、例会、シンポジウムをはじめとする催しなどで協力してくださるみなさまのお力を積算すると後者の条件は比較的達成しやすい。ただし、申請後さかのぼって2年間の活動や報告状況が審査対象となる。先述の通り、役員構成など要件に適合していない部分を改正したところなので、今年度は残念ながら審査対象になり得ない。よって、最短でも平成28年に申請となる。

 先般、明倫学区と連携した「まちなかの暮らしを知る」プロジェクトが、京都地域創造基金と京都市の助成プログラムに採択されたが、これは寄付金集めの試みでもある。2月中旬時点で目標金額に近づきつつあり、個別事業に対する寄付金として目的が明確であればある程度の寄付が見込めることはわかった。申請時に第三者機関への登録など、さまざまな情報公開が必要であり、認定NPO申請の準備運動にもなった(注2)。だが、常に要件を満たすべく、寄付を集めるために活動する、というのは本末転倒である。また、ワールド・モニュメント財団の支援において公開性が求められたように、寄付者に対するお礼と報告は常に必要であり、お金をいただく怖さにもつながっている(もっともこの公開性の意味と内容については議論の余地があろう)。

 認定申請は事務や実務上の問題だけではなく、どの基準を選ぶのかによって、活動そのものが変質する可能性を秘めている。NPO法人としての再生研が何をなすべきなのか。分け隔てなく一般市民のために働く行政でもなく、利益追求のために働く民間でもない。再生研だからこそできること、あるいはしなければならないこととは、法制度上既存不適格の町家を伝統構法によって健全なかたちで、しかも時代に合った生活の器として美しく再生することである。それらのために苦難を乗り越えねばならない所有者や生活者を支える続けることこそ、再生研のミッションである。「苦難」そのものを排除することももちろん必要である。使命というと大げさだが、再生研でなければ誰がやる、という課題である。これは一般的に言う「仕事」ではない。賃金を得るための労働でもないし、単なる作業でもない。NPO法人のボランティア的な活動として果たすべきことである。困っている方々を支えるために相談に乗り、よい方策を一緒に考える。構造がわかる人はその調査をおこない、デザインができる人は住みやすい設計を考える。税金など法的な側面、制度上問題を抱えている町家の社会的環境を整え、問題状況を解決する。本来このようなミッションを可能にするための実働的な組織として立ち上げたのが作事組や情報センターであったが、これらの組織が自らの仕事を得るための手段となっているようでは、これもまた本末転倒であろう。住み続ける人々が普通に町家を選択できるようにするために、組織として体力を備えてしっかりと実働するためにはどのような活動形態がよいのか。この機会だからこそ、この機会に十分議論して、関連組織も含めて体制を見直すべき時に来ているのではないだろうか。

(注1)その他、主な基準は以下の通り。2.事業活動において、共益的な活動の占める割合が、50%未満であること。3.運営組織及び経理が適切であること。4.事業活動の内容が適正であること。5.情報公開を適切に行っていること。6.事業報告書等を所轄庁に提出していること。7.法令違反、不正の行為、公益に反する事実がないこと。8.設立の日から1年を超える期間が経過していること。なお、経過措置として、パブリック・サポート・テストの基準を満たさなくても仮認定を受けることは可能だが、申請時から過去2年間さかのぼって、活動や実務を審査されるため、他の基準を満たしていない今年度は審査期間に含むことができない。

(注2)選考基準にNPO法人の社会的認証を位置づけるため、日本財団のサイトCANPAN に事業報告や決算内容などの情報公開をおこなったり、特定非営利活動法人きょうとNPOセンターの公益ポータルサイトで社会的認証を得たりする必要があった。

2014.3.1