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京町家再生研究会

空家条例と町家再生、町家新住民に響く助成制度とは?

宗田 好史(再生研副理事長)

 総務省住宅・土地統計調査速報値によれば、2013年10月時点で全国の空家総数は820万戸、空家率は13.5%に達した。5年前の調査より63万戸、0.4ポイント増加した。実際、全国の5246万世帯に対し、住宅総数が6063万戸もある。今や7.4軒に1軒が空家である。そこに、毎年新築が続き極端な供給過剰だから人口減少が進む2040年には4軒に1軒、2050年には3軒に1軒が空家という試算がある。

 一般に、空家には、(1)売却用住宅の空家(売残りの建売とマンション)、(2)賃貸用住宅の空家、(3)別荘等二次的住宅、(4)その他の空家に分類され、中でも(2)の賃貸が54.5%、(4)のその他が35.4%を占める。町家について言えば(2)が空長屋、(4)が空町家に相当する。もちろん、条件の悪い老朽家屋から空家になっているのだが、京都では町家や民家はまだ人気が高い。戦後の安普請の老朽木造住宅の売却・賃貸が困難になり、市内では空家はますます増加する。

 この中で、2010年10月埼玉県所沢市が全国初の空家条例を施行し、2014年4月1日までに全国355自治体が空家適正管理条例を施行した。「京都市空家の活用、適正管理に関する条例」も同様に4月に施行された。京都市を含む184自治体が行政代執行の規定を設け、74自治体が空家等の管理・除却費を助成している。また、すでに374市町村が「空家バンク」制度を始め、NPO法人等に委託し、空家活用を進めている。

 2010年の京町家まちづくり調査の外観調査で空家と判断された町家は市内全体で5千軒、空家率10.5%とされた。2013年10月の住宅・土地統計調査では町家を含む全空家数は京都市内全体で11万4千5百戸で、住宅総数に占める割合は14%になる。だから、町家の空家の方が少ないのだが、十数年前の最初の調査では空家率は6%、この間に2千戸ほど増えたといえる。とはいえ、住民の高齢化と競うように、近年では町家の流通が進み、年間百軒以上もの町家が売買され、同程度の町家も賃貸に出される。しかし、流通が進まないのが約11万の普通の空家と古びたアパート、5年間で3万3千軒以上増えている。だから、町家の流通に期待をもちつつ、京都市は空家条例で流通を強化しようと乗り出した。

 条例による京都市の「空家の活用・流通支援等補助金」には、活用・流通促進と特定目的活用支援の2タイプがあり、前者は1年以上の空家を賃貸・購入し住む人に、台所・トイレ・洗面など水回り、給排水・電気・ガス設備、内装・外壁・屋根の改修と耐震工事を対象に工事費の2分の1までの上限30万円が補助される。町家の場合は上限が60万円という。加えて、家財撤去にも5万円が出る。後者は芸術家と留学生向き、また地域の居場所づくりなど市が定めた特定目的活用の場合で、上限60万円、町家なら90万円までと優遇されている。その効果のほどはまだ不明だが、全国の注目を集める京都市らしい事業である。作事組のお施主さんにも、情報センターの町家流通にも弾みがつくだろう。とはいえ、他の町家支援制度同様に空家所有者にこの制度も伝わりにくいことが容易に想像できる。

 空家発生の背景は多様である。根底には家族制度の変化がある。職住分離が普及し、家族が遠く離れるのも一般化した。その結果、高齢者独居が増え、土地建物を相続する意味も大きく変わった。高齢化社会では空家の相続人が高齢化し、資産運用・活用意識も薄い。気づかない人は多いが、これに加えてバブル崩壊後の失われた四半世紀の間に起きた大きな社会の変化がある。この中で、次世代が家族のビジョンを描きにくい。子が我家を受継ぐべきと思い続けた老親が亡くなった後、家を手放すのは憚られる。しかし成人した自分の子が家を受継ぐとは考えにくい。流通も活用もできず、この狭間で皆悩んでいる。  だから、空家発生の要因は相続人が空家を市場に供給しない供給者側要因が、市場で空家の需要がないという需要者側要因より大きく作用する。供給者側には、相続人がいない場合もあるが、空家と認識しない場合がある。そもそも、空家相続人に売却・賃貸意思が無いのである。京都市の空家補助金の効果が期待できない理由はこの点にある。

 世界一の長寿国の日本では、還暦を過ぎてから親を看取る人も少なくない。現役時代に持家をえる甲斐性があった人でも、借家やアパートを経営したり、不動産を売買した経験は普通ない。退職した後に古家を手にしても、多少補助金があっても反応が鈍いのは容易に想像できる。長年離れて暮らしていれば、古家周辺の町内のことにも意識が及ばない。加えて高齢化で意識も保守的に傾き、古家を手離すのは辛く、活用するのを億劫に感じる。

 京町家ネットには町家活用事例は多い。しかし、所有者が空家の活用・流通を望んだ場合は少ないと思う。流通センターの不動産の皆さんが粘り強く説得した例もあるだろうが、空町家を相続した中高年世代を飛び越えて、次の世代が住みたいと言い、その若手に引かれて町家改修に資金を出す人が多い。彼らには20世紀型家族と違い、生家に戻ろう、家族で集まろう、仕事よりも住まいを大切にしたいなど21世紀型の新しい家族のビジョンがあるように感じられる。もちろん町家の場合、市場に高い需要があるのだが、その需要を支えるのもロハスとも呼ばれる新しい意識をもった住民であることが多い。

 この他にも、古家の修繕を頼める大工が少ない、中古住宅市場の未成熟、古家の賃貸への忌避感、入居者と近隣住民とのトラブルなど、空町家を貸したがらない理由は多い。仏壇の扱いもよく問題になった。この状況は過去20年間に随分改善したように思う。どれも20世紀の古い仕組みに起因するもので、再生研も悩んできたが、失われた四半世紀の社会の変化とともに解消しつつあると言える。

 こうして進んできた町家再生の原動力は、住民の高く新しい意識にもあったが、何と言っても京町家自体の魅力にあったと思う。新しい住民を惹きつける町と家の力が大きかったのだろう。本格的な人口減少社会の中で、この力を発揮する町と家が残り、20世紀の後半に続いた粗製乱造の町と家が消えていく。空家問題が深刻化する中で町家再生に一層の全国から注目が集まっている。

2014.11.1