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京町家再生研究会

地域に根ざした活動 明倫学区まちづくり委員会との取組

丹羽結花 (京町家再生研究会事務局)

◎明倫学区とまちづくり委員会

 明倫学区は京都市中京区、およそ四条から三条、烏丸から西洞院の間に広がる、古くから繁華なまちなかである。再生研発足当初から本部があることもあり、深い関わりがある。初代会長の望月秀祐氏は明倫学区に住んでおられたことがあり、かつての町並みや暮らしについてたびたびお話を伺った。明倫小学校が京都芸術センターへと変わったときにおこなわれた見学会で「子どもながらにぜいたくな学校だと思っていた」と語っておられたことが特に印象に残っている。初期改修事例の橋弁慶山町会所、まちづくりファンドを活用した八幡山町会所など、祇園祭の町家(ちょういえ)改修にも関わってきた。

 平成22年、ワールドモニュメント財団の支援を受けた釜座町町家の再生プロジェクトにより、地域に根ざした活動が地道にできるようになる。あわせて作事組、情報センターの拠点ともなり、日頃から明倫学区にお世話になっている。釜座町町家再生をきっかけに、隣のページ、長谷川さんの奮闘記の通り、釜座町には茶道部ができ、お稽古が始まった。平成24年には再生研設立20周年記念の大茶会にもご協力いただき、はじめて茶会を開く。参加者からは、実際にまちに住まわれている方々と語りながら、ほんものの町家に接することができる、と好評であった。

 明倫まちづくり委員会は平成12年「歩いて暮らせるまちづくり」への参加をきっかけに活動を開始し、平成14年に学区の自治連合会の一部会として正式に発足した組織である。再生研も当初からいくつかのもよおしに協力、協働している。委員会の中心人物に長谷川さんがおられたことも、前述の再生プロジェクトにつながっている。学区住民を対象としたまちあるきのもよおしに再生研メンバーが専門家として解説したり、「浴衣で回ろう祇園囃子」に友の会メンバーなどが参加したりするなど、双方が支え合っている。特にこの数年まちづくり委員会が地区計画策定にむけて動き出し、町家の多い街区において、再生研が専門家として関わる機会も多くなった。

◎「まちなかの暮らしを知る」プロジェクト

 一昨年、京都市の声がけで、公益財団法人京都地域創造基金の助成プログラム「地域団体とNPO法人の連携促進事業」に再生研と明倫学区まちづくり委員会は共同申請をおこない、「まちなかの暮らしを知る」プロジェクトが採択された。NPO法人が地域と連携した活動をおこない、その資金を一般の方々からいただいた寄付でまかなう、という最近の社会状況に連動したものである。釜座町町家再生プロジェクトにおいて財団による支援を受けた経験はあるものの、不特定の方々から寄附を受けるというのが可能なのか、妥当なのか、再生研でも議論になった。とにかくなんでも試してみるのが再生研のこれまでのやり方であり、今回も挑戦してみたわけである。

 プレイベントとして、昨年平成26年3月には「町家で遊ぶひな祭り」を開催した。本部ではおひなさまを飾り、若手女性漆芸家が華やかなお茶席を設け、春を間近にした明るい町家を参加者には感じていただけた。そして釜座町町家では「右大臣と五人囃子のおもてなし」を開催、再び茶道部による呈茶がおこなわれた。笑いの絶えないなごやかなもてなしを受け、会費の一部をプロジェクトの寄附としていただくしくみもそれほど抵抗なく受け入れられたようだ。
 平成26年度、プロジェクトを本格的に実施することになった。当初は高齢者の問題をとりあげ、かつておこなわれていた「夜話の座」のように昔の暮らしや町並みを知り、これからも住み続けることができるまちづくりのための素材を収集する予定だった。しかし、明倫まちづくり委員会が景観まちづくり協議会に認定され、地域景観づくり計画書作成に協力することが急務となった。学区の方々からは歴史的なことや町家そのものについて知りたい、という要望が強く、今年度は勉強会を中心に企画した。7月例会では高松神明神社の村上宮司に界隈の歴史的な様子を詳しく解説していただいた。

 夏には、明倫学区の象徴でもある祇園祭において、しつらえの現状を知り、今後の景観づくりに資するように、町並みを調査することになった。幔幕や提灯は伝統的なしつらえであり、当然、伝統的な町家にしっくりとくる。昭和50年代に建て替えられたオフィスビルでも玄関に提灯立てを設置し、幔幕がしっかりかかるようになっている。当時の方々は習慣を引きつぐべく、工夫していたことがわかる。最近の建物にはそのような工夫がないものも多く、アンバランスなところも見受けられた。もっとも残念なことは、近年できたマンションやコインパーキングに工事現場のような囲いが多く見受けられたことだ。おそらく大勢の観光客に対するいたしかたない処置とは思われるが、それにしても荒々しい。ハレの日を迎えるしつらえとは対極である。9月には明倫まちづくり委員会で報告会を開き、これらの事例をスライドでたくさんみていただいた。学区のみなさん、再生研メンバーもあわせて、議論した。住んでいる方の気持ちが反映された仕組みや町会所として活用されているマンションなどでのさまざまな気遣いが印象に残った。

◎これから

 どのようなフィールドにおいても外部の目が入ることで改めて認識することがある。勉強会や調査結果の検討によって、学区や町並みの現実が明らかになると同時に、京町家とは何か、という議論も浮上している。飲食店など町家の利活用が増えるなか、住み続けるための町家は減少している。次の世代に引き継ぐためには、マンション住民が8割を占めるという学区にとって、住み継ぐための町家の価値観を共有する必要があるだろう。3月例会ではこのような背景を踏まえて、ほんとうの京町家再生とは何か、学区のみなさんと一緒に議論していきたい。

 地域景観づくり計画書が確定すれば、新築の場合など業者と事前の意見交換会が必要となる。専門家として再生研、作事組が学区に協力する機会がこれから増えるだろう。地域に根ざした活動というよりも、再生研が学区とともに生き続けていく、ということになればうれしい。

2015.3.1