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京町家再生研究会

9月例会報告 山鉾設計監理の課題

丹羽 結花(京町家再生研究会)


占出山 2014年の山建て
 平成27年夏の祇園祭では、前祭の芦刈山、山伏山、後祭の鯉山、役行者山が山本体の復元新調を終え、巡行初披露となった。これで京町家再生研究会が設計監理を行い新調した舁山は、前年お披露目した占出山を含めて5つとなる。9月12日(土)の再生研例会では、設計監理の担当者がそれぞれの山の特徴や新調の過程を解説した。参加者は11人と少人数であったが、スライド写真をみながら、図面を囲み、かなりつっこんだ議論が展開された。個々の構造など詳細は専門家である担当者の報告を待ちたい。今回は例会を踏まえて、設計監理の意義と課題をまとめておく。

1.復元新調とは
 祇園祭山鉾連合会を通じて、各山の保存会の要請に応じ、京都府及び京都市の文化財保護課が緊急度と予算にあわせて復元新調を計画する。補助金事業となるため、専門家として京町家再生研究会が設計監理を担当し、図面と報告書を作成する。
 山本体とは、駆体である櫓をさし、付随する床および胴掛け下地も含めている。巡行ではご神体や縣装品が飾られ、覆い尽くされるので、ほとんど見えない。祇園祭を基礎から支えている部分である。近世から近代にかけて製作された山の部材は保存会の方々や作事方が丁寧に扱われてきたものの、さすがに傷みが激しく、近年ようやく新調工事を迎えた。
 計画のめどが立つと前年度から実測調査に入る。実物を調査できるのは一年に一度、お祭の期間、山建ての機会しかない。保存会、作事方ともタイトなスケジュールの中で動いておられるなか、ご協力をお願いしている。
 基本的には割れや欠損部分を復元して元の形に戻すが、町家の再生と同じく、お町内の要望や工務店の意見も聞きながら、工夫できるところは改修を加える。構造は町家に比べるとシンプルだが、細かい部材も多く、特にご神体などがのる床の穴の位置、補強のための金物の実測や図面化には案外と手間と時間がかかる。

2.例会報告
 櫓の構造は鉾と大きく変わるものではない。部材の大きさや筋違、貫の入れ方などは各山で異なる。櫓の構造は四方転びが一般的だが、四本柱が直立している山もある。床は当然のことながらご神体や飾りによって穴の開け方もさまざまで、松の位置も必ずしも中心ではない。鉾のように真木がある山もある。これらの受け材の工夫も多様であり、先人の知恵が見受けられる。胴掛け下地の造りもさまざまで、その違いが傷み方に出ているかもしれない。丈夫で長持ちする構造を検討する担当者にとっても得るところが大きく、各担当者同士が議論する場面もあった。

3.設計監理の役割 検討会と仮組
 復元新調において共通しているのは木構造を第一と考え、不具合の調整は他の部材でおこなうということだ。金物も使うが、構造を傷めないように、材が長持ちするように考える。ところが、この一点が保存会の要望と噛み合わないことが多い。しかも保存会が抱えている問題の多くは実はこの点に関連しているようだ。保存会としては町内で受け継いできたご神体や縣装品が最も大切であり、無事巡行を果たすことが最大の目的である。巡行当日、効率的に間違いなく山飾りを進めるために工夫したい。各町内の作事方はその要請に従い、作業効率を優先する。急場しのぎに部材をはつったり、部品をとりつけたりして本体をいじめてしまうこともある。
 このような問題は復元新調の過程において数回開かれる検討会で噴出する。検討会には各保存会、工務店だけではなく、京都府、京都市、連合会の担当者が参加し、実物や図面をみながら復元新調のあり方を確認する。設計や工務店としてはいろいろな提案をするが、基本思想が共有されていないと議論が噛み合わない。これらをすべて調整するのが設計監理として再生研に託されている。
 縣装品との兼ね合いは象徴的な問題である。胴掛け下地の中には左右で寸法が違うとか、きちんとした直角部分が一面もないとかいう山もあった。検討会の中では仮組も行い、縣装品を実際につけて議論した。いつもはあわただしく行っているが、時間を掛けてゆっくりやってみるとできることもある。過去の写真を見ながら「謎」が解けたところもある。ある山では大きな下地仮模型を作り、織物商も来て縣装品の寸法を合わせる場面もあった。検討会や仮組は山全体を理解し、関係者が情報を共有できるという点できわめて貴重な機会なのである。

4.今後の課題
 伝統の祭礼と技術をどのように伝えていけばよいのだろう。現代の技術や工夫も必要だが、木造になじまないものは避けなければならない。確かに技術は進んでいるが、新しい素材との兼ね合いは難しい。また効率を第一にすると、ものの扱いがおそろかになる。保存会や作事方でも一年に一度の短い時間で多様なことを伝えるのは難しいだろう。
 今後は検討会や仮組のようなワークショップを開催し、関係者とともにじっくり取り組む機会をもちたい。縣装品の新調など、それぞれの専門家はいるが、総合的に検討するためには、設計監理の立場が重要となる。山に飾られた時、巡行時の影響を関係者全員で考える機会が必要であろう。
 基本的な考え、すなわち駆体、構造が第一であるという意識を祭に携わるすべての方々に認識していただけるよう、まずは再生研が持っている情報を公開し、関係者と議論する場を設けたいと考えている。

9月例会
祇園祭の舁山新調 ―山鉾設計監理の課題―
平成27年9月12日(土)14時から17時
釜座町町家にて
占出山/木下龍一、役行者山/内田康博、山伏山/末川恊、
芦刈山/井澤弘隆、鯉山/三木佑美
2015.11.1