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京町家再生研究会

タイ王国訪問

<末川 協 (京町家再生研理事)>


バンサイ国立民芸センター

美術工芸国際センターのポップな展示

スワンサムプラン美術文化協会との交流会
 東南アジアの報告も3回目、3月に訪ねたタイ王国の視察をレポートする。先行してマレーシア、ペナンを訪れていた大西清右衛門氏、小島理事長、宗田先生と17日の晩にバンコックで合流し、以降4日間、首都近郊の伝統工芸の現場を訪ねた。地元バンコック・フォーラムの活動家アンチャン氏がコーディネーター、通訳ではムティター氏のお世話になった。氏の日本語は完璧で、現地での意思疎通は格段に濃いものになった。

 初日、まずアユタヤ県のバンサイ国立民芸センターを訪ねた。女王の肝いりで国中の30種の民芸を集め、実演、展示を行う。15歳以上の若者は手当て付で技術研修を行える。石鹸の彫刻やアートフラワー、ミニチュアのジオラマ制作等、今日的な分野もあるが、圧倒的に伝統民芸が面白い。200年前にタイにも普及したラーマナヤの踊りの被り物や仮面の制作では、木材や漆、にべ(魚の内臓の膠)や昆虫の羽根等、伝統的な材料とシリコンやセメント、アクリル塗料等、今日的な材料を取り混ぜ、30人近くの研修生が制作を行っていた。見学を傍目に、初め苦虫を噛み潰していた先生も大西氏の屈託のない質問に、蘭や竹を基にした伝統模様の原則からその象徴性まで、お話が止まらない様子であった。伝統絵画では漆や金箔で仏教作品を制作、優秀な卒業生はお寺の装飾や、外国人用のお土産つくりの仕事に就く。徹底的な模写が研修の基本だが、トレースは絶対にさせず、細部から全体まで自分の技量として習得を目指す。午後からは美術工芸国際センターを訪ねた。東北部、北部、南部まで数十の少数民族の伝統民芸、王室に伝わる金細工の技術や様式を再生した作品、伝統的な織物の展示と合わせて、著名な現代作家の工芸品やデザインが展示されていた。山田長政記念館を訪ね、チャオプラヤ川のボートでアユタヤの遺跡を楽しみながら川魚の料理を頂いた。

 2日目は仏教美術館を訪ねた。近年の高僧の肖像や仏教シーンのデジタルアートなど、世俗化した印象に映るが、国民の95%が上座部仏教徒のタイと日本の大乗仏教の信仰のリアリティーの違いが印象的だった。ついでナコンパソン県の陶芸家ポンラック氏のアトリエを訪ねた。1000年以上前からタイに伝わるセラドン焼を今も作り続ける(セラは石、ドンは緑の意)。昼食後、スワンサムプラン美術文化協会との交流会に出向いた。お固い意見交換会などなく、伝統音楽やアートフラワー、葦の細工など、近隣のおじさんやおばさんの同好会の様子、空き瓶の中で寄木細工やタバコの包装を組み立てる揚げ物屋台のおじさんもいた。手作りの郷土料理を車座で頂き、輪になってダンスを踊った。ここでも大西氏が気さくな人柄で人気者になっていた。


スタッコ作家のアトリエ

文化庁伝統美術工芸センター
 3日目はプラパトムジェイデイ寺院をお参りした。前日のポンラック氏が壷に描いていた巨大な仏塔があり、3層にわたり増築を重ねたもの。ついでラブリ県のカノン寺の影絵人形劇の見学に出かけた。南〜東南アジアに広く伝わるものだが、7年前にカンボジアで世界遺産に登録、タイでも国の登録遺産にされている。お寺の支援で、楽奏、ダンス、舞台照明、人形制作まで、継承グループが運営されている。人形制作では型紙に合わせて牛の皮を線や点で打ち抜く。その作業が3日程度。お土産物は実際の演劇用と少し変えて作る。フォタランの古い町並みにあるレストランで昼食の後、ぺブリ県スタッコ作家、トングン氏のアトリエを訪ねた。タイの人間国宝である。材料は石灰、砂、藁半紙、膠、地元特産の椰子の蜜など。作品は100年を経ると石灰が石に変わり、半永久的に永らえるという。氏の話は哲学的、地元の寺院の仏塔の先に鏡を付けたところ、鏡が燃えているように見えた。偶然なのか何かの意図なのか。環境が全て担保された時、良い物を超えて素晴らしい物が出来る。作家以前に職人(アルチザン)であり、作る物は常に決まっており、国王に作る物と一般の人に作る物は別にする。古いものを尊重する日本の職人も尊敬していると。先のポンラック氏と同様、経済的にも自立した作家だった。夕食後、県の芸術文化際に出かけた。折り紙のワークショップ、少数民族の音楽会、学生のオケやドタバタ劇、郷土の歴史資料の展示等の間に様々な屋台が出ていた。山間部の虫の料理など珍しい食べ物もあり、焼き芋や寿司、えのきベーコンなど近年日本から伝わったものも。

 最終日はナコンパソン県、文化庁の美術工芸センターに出向いた。10分野の展示の内、半分が伝統工芸、国立民芸センターとも役割が重なるが、こちらは文化財の修復作業を中心に行う。いずれも修復の箇所が分るように直すルールがあると言う。伝統絵画、スタッコの他、螺鈿、寄せ木細工、パーライトンペールワッドウという特殊な飾り布、金工細工もあった。大西氏が各分野の様々な材料を手にして(時には舐めて!)、熱心に聞き取っておられた。

 上記の行程で視察を終えた。今後、大西氏の詳細な報告やアンチャン氏との協働の取組に期待したい。かつてなじみの首都のチャイナタウン、料理店やマッサージ屋が今も健在であった。しばし忘れていたタイの優しい人達と交流、

2016.7.1