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京町家再生研究会

公開セミナー「まちなかの変貌を考える 町家をこれ以上壊さないために」



 6月の公開シンポジウムに先立ち、4月には公開セミナーを明倫自治会館(旧明倫幼稚園遊戯室)で開催しました。当日は80名余りの参加者で会場がいっぱいになりました。「京町家を壊す前に届け出る」新条例の具体的な運用について検討するなかで、「京町家を壊さない」という単体の話と地域のまちづくりがどのようにつながるのか、地域のみなさんと一緒に考える機会といたしました。
 まず、明倫まちづくり委員会長谷川明委員長より、明倫学区の変貌と地域の取り組みについて、報告していただきました。現在、まちなかでは条例の本格的な施行を目前にして、次々と京町家が壊されています。跡地に建つのはホテルばかり。明倫学区でも3月に150室規模のホテルが開業しました。明治の近代化に尽力した実業家、田中源太郎の旧邸で京都の老舗料亭が長く営業していましたが、閉店。取り壊された跡地にホテルが建設されたのです。明倫学区自治連合会は京都市より地域景観づくり協議会の認定を受けており、新築や改修、看板など景観条例の対象となる案件については、まちづくり委員会が窓口、実働部隊として、建築工事前に事業者などと意見公開をおこなうことができます。このホテル建設に関しても、複数回の意見交換会をおこない、ファサードなどに関する申し入れをおこないました。見た目だけではなく、新町通の交通渋滞を緩和し、安心安全な暮らしが守られることを目的として、セットバックを広く設けてもらい、サービス車や客待ちタクシーの調整などをしていただくなど、運営面についてもさまざまなお願いをしてきました。当初の提案よりは改善されましたが、明治150年という節目の年に近代化の遺構が消滅してしまったのは誠に残念です。
 新しい建物によってまちが美しくなり、住みやすくなるのならばよいのですが、京都の敷地割を考慮せず、これまでの暮らしとは全く別のものが入り込んでいるのが現実です。法律や条例の範囲内で建てられていても、地域の特性にはそぐわないこともあります。たとえば、明倫学区のように商家が中心であったまちでは、表に植栽をするという習慣はありません。表はすっきり、中に庭をもち、緑ゆたかな、風と光がさしこむ空間を大事にして、隣接する家同士がお互い気遣うような住まい方が京町家のかたちには表れています。
 京町家が壊れるとこのような空間の仕組みが壊されていきます。すでにオフィスビルやマンションが林立しており、数少なくなっているとはいうものの、それでもお互いが配慮しながら培ってきたまちなみです。ホテルは、仕事でも居住でもない通りすがりの人々がひととき滞在するだけの場所であり、仕組みや気遣いができる方々が集まるわけではありません。物理的にも空間としても、毎日のありふれた生活のなかで、地域住民の居住環境が脅かされているのです。  新条例は町家を「守る」ためだけにあるのではなく、町家の所有者の権利を守るものでもありません。取り壊す前に京都市に届けることになれば、地域ではその情報をいち早く受け入れ、次に引き受ける人や建物に対してある程度の努力を促すことができます。乱雑になってしまい、どんどん住みにくくなっているまちなかを少しでもよくしていくことができる可能性を秘めた新しい条例なのです。近代、特に終戦後、個人の権利が優先し、次の時代にどのように引き継ぐのか、中身については問わず、お金のやりとりばかりが優先されてきました。「次の所有者に任せたからそのあとはどうなっても知らない」というのではなく、現所有者が抱えきれない「次の世代への引き継ぎ」という悩みを地域で受け継ぎ、民間で考えていくことができるのです。町家が壊される前に、町家のままで検討することができる、というのがこの新条例の重要な点なのです。単に町家を保存するのではなく、都市の環境を整備する大切な機会になるのです。
 高田先生のお話にあったように、かつては住民の2割が定住、8割が借家でした。今は8割が定住、明倫学区でも9割がマンション暮らしです。既存の建物に人々が住み替える仕組みがかつてはありましたが、戦後の持ち家奨励政策もあり、そのような住人が新陳代謝していくような仕組みが希薄になっています。
 今回の新条例はもう一度地域の力を取り戻し、京都市の応援を得て、地域でまちづくりを主導していくチャンスなのです。伝統的な町並みの復活は望めないかもしれませんが、まず地域に力がみなぎらないと、次のまちづくりにはつながりません。
 西村さんが紹介してくださった、不動産屋として取り組んださまざまな具体的な事例もとても刺激的なものでした。町家でいろいろ試してみた蓄積が情報センターをはじめ、再生研にはあります。これからの時代に生き続ける町家の活用を地域の特性に合わせていくことができるのです。
 宗田先生がお話ししたように「引き継ぎ」は家族や相続予定の血縁者だけで悩むことではありません。力のある人、若い世代に渡せるようにすればよいのです。流通やNPOなど「できる」民間の仕組みを作っていくこと、それを京都市が支える仕組みとなっていくことが、今回の新条例の要なのです。
 当日は明倫学区の住民を始め、多くの方々がお集まりくださいました。それぞれ立場によって思うことはさまざまですが、これからも住み続けられる京都をつくっていくために、もう一度新条例を考えていきましょう。
<丹羽結花(京町家再生研究会)>

◆実施概要
日時 2018年4月14日(土)14時から16時30分
場所 明倫自治会館(旧明倫幼稚園)遊戯室
登壇者
   高田光雄(京都美術工芸大学教授、京町家再生研究会理事)
   西村孝平(株式会社八清、京町家情報センター会員)
   宗田好史(京都府立大学教授、京町家再生研究会副理事長)
   小島富佐江(京町家再生研究会理事長)
報告 長谷川明(明倫まちづくり委員会)

2018.7.1