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京町家再生研究会

地域の課題 その2
まちづくり委員会4区情報交換会より
京町家新条例のあり方を考える



 現在、京都市の地域景観づくり協議会制度には10の団体が認定されている。これらのなかから中心市街地として共通の悩みを抱えている明倫学区、修徳学区、三条まちづくり協議会、加えて協議会には認定されていないがまちづくり活動が活発な有隣学区の4組織で、情報交換会を年数回開催している。田の字地区内で情報を共有し、課題解決の糸口をつかもうという目的で、前向きに連携をはかっている。今回は前号に引き続き、これらの活動から地域が抱えている課題を明らかにする。一つは宿泊施設増加の問題、もう一つは京都市のまちづくりビジョンに関する疑問である。
 12月3日には、3地区が旧有隣小学校に集まった(今回、三条まちづくり協議会は欠席)。有隣学区は下京区河原町から東洞院、松原から五条の通りに囲まれている。繁華街から一歩入ると仏壇など伝統産業に関わる職人さんが多く住むまちが広がっている。空き家対策に力を入れており、所有者にわかりやすい冊子を作成、学区の空き家再生事例としてあけびわ路地の改修も紹介されている。
 当日は、10月に町内会長を対象におこなった「民泊・宿泊施設 近隣対策アンケート」の結果について紹介していただいた。地元以外にも、北海道や東京などの事業者がおられる。地域住民の困りごととしては、タバコやゴミのことなど生活上の問題もあるが、責任者が不明なことに不安を感じておられることがわかる。修徳学区ではゲストハウスや簡易宿所の運営についても協定書を作成して、一つずつ交渉を重ねているという。明倫学区では、ホテルや飲食店の増加により、全面ガラス張りなど建物のデザインだけではなく、派手な看板など広告物も悩みの種になっていることなどを報告した。
 一体京都市は田の字地区の将来像をどのように考えているのだろうか、という疑問が各学区共通の問題としてあげられた。ホテル街になることを望んでいるのだろうか。ホテルや簡易宿所の建設が簡単に認められ、多くの外国人が行き交う。住民は疲弊し、まちは荒れていく。実に住みづらくなってきた。京都市は田の字地区から住民を追い出したいのだろうか。
 ようやく京都市は京町家新条例の具体的な対処として、地区指定に向けて動き出しているようだ。各学区内でもいくつかの通りが候補に挙がっている。町家の集積度を踏まえて通りの一部を指定しようとしているようだが、地域で活動している住民にとっては、他にも重要な町家があるなかで、一部分の通りだけをなぜ指定するのか、その意図がはかりかねる。もちろん指定されたところから積極的な動きや歓迎の声が出てくれば、通りの指定を機にこれから各地域でさまざまな動きが出て、徐々に拡大するという考え方もあるだろう。しかし、本来、条例ではすべての町家、40,000軒が対象であり、そのなかに区別はないはずだ。
 このような動きを踏まえた上で、住環境を整えるために何が重要なのか、京都市には再考願いたい。町家という建物だけが残っても意味がない。地域住民にとって住みやすいまちになることが大前提なのである。そういう意味でも、地区指定を早急に検討して欲しい。指定には地域や住民の同意が必ずしも必要ではないとすれば、早々に大きな網をかけて欲しい。安易なゲストハウスへの転用だけでは、なんのために町家を残していくのか、意味がなくなってくる。少なくとも前向きな活動がおこなわれている学区については、学区内の町家が少しでも良い形で再生されることを前提に、地区指定を学区全体にかけていただきたい。まちづくり委員会の面々があきらめムードにならないように、少しでもひとつでも進めて欲しい。それくらい地域の課題は危機に直面していることを京都市には認識していただきたい。

< 丹羽結花(京町家再生研究会)>
2019.1.1