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京町家再生研究会

町家を活かす都市計画へ

宗田好史(京都府立大学)
 今年1月の例会として多くの会員の皆様にご参加いただき、熱心にご発言もいただいた「まちなみシンポジウム」は、京都市都市計画局長の諮問による「都心部のまちなみ保全・再生に係る審議会」(通称「まちなみ審議会」)開催の市民フォーラムであった。その審議会が去る5月、座長の青山吉隆京大教授のご苦労で1年半に及ぶ議論を答申にまとめた。その内容は、今年度中早ければ11月の市議会で条例案として検討される。

 京町家の再生を取り巻く課題は数多い。今回は、都心の町家が商業地域に指定され、容積率400〜700%、高度地区で31〜40mであること、厳しい景観条例をもちながら建造物修景地区という緩い規制しかないことが審議会の中心的課題であった。文化財建造物に指定された町家を含め、集積からみて全国のどの伝統的建造物群指定地区よりも多い8000軒というまとまった規模で、個々に見て優れた京町家が継承されながら、都市計画上は何ら有効な規制がない状態が、すでに40年近く続いていた。この結果、1980年代の420に対し、バブル崩壊後の98年以降は年間950戸のマンションが分譲・供給されている。道路斜線が緩和され、共用部分の容積率不算入制度が導入されたマンションが、およそ町家のまちなみに相応しからぬ状態で建ち並んでいた。1970年ピーク時の半分に減った人口は6〜7割程度にまで回復し、世帯数は多くの学区で70年当時を上回った。マンション建設で、町内世帯数が3割にまで減った町もあれば、逆に7.6倍にまで増加した町内もある。

 すでにご存知の方も多いが、今回の答申とは「町家やそこに育まれた生活文化、そして数多くの文化財といった地域のまちなみ資源が大切に継承されるために、土地利用の転換や建物の更新に際しては、これら資源との調和が図られ、都心としての賑わいを維持しつつ、持続可能なまちなみが形成される」ために、現在の都市計画制度で対応できる最大限の規制をかけ、できないものも飽くことなく引き続き検討すべき、というものである。

 まず、直ちに実施する規制とは、@高度地区の変更(20mを超える建物は周辺環境との調和に関し市長承認制)・道路斜線緩和の見直し、A京町家のまちなみに相応しい「美観地区」の指定、B特別用途地区を指定し、300%以上の高度利用の建物の1・2階部分に店舗・事業所を配し、町の商い・にぎわいを連続させるとともに、専用住宅共用部分の縮小で容積の低減を図るの3点である。審議会で検討を重ねながらも直ちには実施できない継続課題は、@周辺住民が建物更新に参画する制度、建築許可の前提としてその義務付け、A防火地区など建築基準法上の既存不適格状態の適法化、そのための防災上の措置、B文化財周辺への高さ・容積など美観地区以上に厳しい規制、Cまちなみ税、D町家の緑を保全する制度の5点であり、今回中心に議論した職住共存地区のほか、E幹線道路沿いの規制の見直しについても、残念ながら持ちこされた。

 審議会での論点は、まず実質的なダウンゾーニングであるこの規制強化が不況業種に手痛い打撃となること。私は、長期的ではあってもまちなみ整備の経済効果は大きく、地価下落などの危機は世界的な経験から見て比較的短期間であると考えている。次に、2階建で150%以下の容積の町家規模からみて20m・300%では規制が緩すぎること。これは、厳しい規制への議論に時間をかけ合意するか、最初の一歩を直ぐに出すかの議論であり、次回は是非15m・200%をかけたいと思っている。そして、周辺住民との協議の制度は、すでにまちづくり条例をもつ京都市が、地方分権や都市計画法・建築基準法見直しの中で、今後市民参加制度の充実を進めつつ、確立できる仕組みを研究したいと思っている。

 ご覧の通り、審議会答申には残された課題の方が多い。しかし、京町家を取り巻く課題はこうして一つずつ解決に向かいつつある。我々が手がけるべき研究は、まだ多く残されている。次の新たなる審議会に向けて、これからどんな調査をするか、今考えている。