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京町家再生研究会

「子どもと川とまちのフォーラム」の活動拠点としての京町家…中京区・O邸

磯野英生(再生研究会幹事・成安造形大学教授)
 今回の訪問した京町家は、醒ヶ井通六角下ル西側にある。「世界子ども水フォーラム・京都」の事務局として使われているとあらかじめ聞いていた。そこでひとまず斜め向かいにお住みになる大家のOさん宅を訪問し、今回の改修の経緯を伺った。
 この辺りの地所は以前はO家のものであったそうで、向かいの借家となった町家も、現当主のOさんが所有する前は、米屋を営む叔母ご夫婦が住んでおられたそうである。ご夫婦がお亡くなりになり、7年ほど前に再びご当主に帰することになった。その後、引っ越しや建て替えなどで当座の家を必要とする方に短期のあいだ貸してこられた。以前からこの家の処遇を考えてこられたこともあって、「子どもと川とまちのフォーラム」の事務局に貸す機会に、この家の改修を思い立たれた。
 そのためさまざまな人と出会ったが、京都市・景観まちづくりセンターや、京町家情報センターの松井氏との出会いがきっかけとなり、京町家作事組を知ることとなったそうだ。
 改修に当たっては、町家の良さを生かした改修を願われたが、それとともに、古い家には宿命の家や床の傾きをできるだけ直すことを考えられた。
 表の構えは、昭和初期に建てられた家によく見られる御影石の腰壁のある家であったが、平格子の構えに直した。玄関は5枚の引き違い戸を格子戸に替えた。「とおりにわ」から「はしりにわ」にかけての土間は残したが、モルタルをはがしタタキの土間とした(タタキはフォーラムの子供たちも参加して仕上げた)。壁の仕上げは「おくの間(座敷)」を除いて1階はきめの細かくやさしい印象の黄大津壁とし、2階は1階座敷も含め、力強い中塗り仕上げとしてある。流しは以前は土間奥から庭に張り出した台所にあったが、それを「はしりにわ」に下ろして移設し、台所は一部取り払い、一部は押入としてある。事務局の机などが置かれることになった「店の間」は、隣接する「だいどこ」や「とおりにわ」とともに合板張りなどの天井をはずし、大和天井としたため、質朴だが豪壮な雰囲気が出現した。「店の間」には物入を新設し、「だいどこ」奥の階段との間の建具共々古建具の丸桟戸をはめ込み新しい建具にありがちな違和感をなくすよう工夫している。一番奥の座敷も、天井がプリント合板であったのを竿縁天井とし復元を試みている。奥庭の塀は横が杉皮張りの風情のあるものであったようだが、傷んでいたため焼き板張りに替え、奥の塀は板塀を新設した。便所は外便所しかないため不便なようだが、借り主がそのままでよいということであった。それほど不便を感じておられないようである。
 2階は、床に合板フローリング、壁はビニールクロス、天井はビニールクロスやプリント合板であったが、畳と土壁と竿縁天井に替えられ、伝統的な空間が再現されている。フォーラム事務局長の小丸さんは、このたたずまいには背筋が伸びる感じがする、以前とは違い部屋の寒さにかえって身が引き締まり、快いとおっしゃっていた。ボランティアの若い人も同じ感想を持たれていると聞いた。たしかに、この何も置かれていない空間は、草と土と紙と木という自然の素材で構成されており、その肌触りは快い。前の状態を知っている人の感想であるだけに、説得力がある。この町家は、Oさんもおっしゃるように居宅というよりは借家普請であるのかもしれないが、あらためて壁が塗り替えられ、ふすまが張り替えられ、建具が入れ替えられた佇まいをみると、簡素ではあるが堅実な住まいであると強く思われた。
 訪れた日はまだ家具のレイアウトも未完成であったが、応対していただいた事務局長の小丸さんや副代表の塚本さんを始め、参画している人たちの生き生きした活動が少しの滞在だけでも感じられ、京都がこれから大きく変わってゆくのではないかという思いにとらわれた。冷たい雨の降る夕刻に傘をさし帰宅することになったが、なんだか暖かな気持ちになれた1日であった。
2004.1.1