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京町家再生研究会

学生たちの自力改修による京町家

松井 薫(再生研究会)
 今回は、学生たち3人が、自分たちで空町家を見つけ、自分たちで改修して共同で住んでいる町家を訪問した。まずは烏丸鞍馬口にほど近いその町家を、京都工芸繊維大学の槌谷、半谷、大川の3君が借りることになったいきさつを聞いてみた。建築を学んでいた3人が、自分たちの思うような改修ができて、しかも安く住める家はないものか、と自転車に乗って空いている家を探して走り回ることからそれは始まった。特に町家ということは意識していなくて、とにかく安くて改修できる家に絞ってあちこち探しているうちに、少しずつ物件探しのネットワークのようなものができてきて、その中でこの場所が空いていること、そこを管理している不動産屋がわかっていることを、知り合いになった人から教えてもらうことが出来、取り壊して駐車場にでもしようというところだったのを借りることが出来た、ということだったそうだ。
 建物は本二階建てで、ちょっと変わった形の出格子があり、内部は一列三室型で、奥に小さな庭と便所がついているもので、元は質屋さんだったらしい(ミセノマの壁に貼られていたベニヤ板をはがすと、土壁に押しピンで止められた質屋の注意書き―盗品は受け付けてはいけない等―が出てきた)。その割には蔵がないね、と言ったら、隣との隔壁に今はふさがれているが、元は開口部があり、隣も持ち主は同じだったとのことで、隣が収納場所に使われていたのかも知れない、との返事だった。出格子部分は2段になっており、下部は透明ガラスが表に入り、その外には鍵つきの板戸がはめ込みできるようになっている。内部には引き違いのガラス戸が入っていたらしく、表を通る人に、低い位置ながら控えめに何かを見せていたような形で、これも質屋さんだったからこのような形になったのかもしれない。
 さて、この町家を彼らがどう改修しようとしたか。3人はこの町家を見て、まずプライベートな部屋は一室ずつあればいいので2階で事足りるから、1階はフリースペースにして、友人、知人や近所の人をはじめ、いろいろな人に開放したい。次に2階のプライベートな場所から1階の気配を知りたいので、2階の床の一部を吹き抜けにして穴を開けよう、2階のプライベートの部屋は天井裏も使えるように床を張ろう、と考えた。もちろん、先立つものは不足しているし、プロの力を借りるわけにはいかず、全て自分たちでやるしかない。改修の経験はもちろん今までになく、不安いっぱいであったが意を決して今年の1月1日工事を開始した。1階のミセノマは1段下がって板敷きであった床を取り払い、土を固めて砂利を敷き、モルタルで(鉄筋入り!)仕上げた。壁は荒壁を出して、表面がポロポロ落ちてこないように木工ボンドを水で溶いて塗った(これが意外にもなかなかいい感じ)。1階の残りの床はタタミを上げて、間仕切りの敷居もはずして、全面杉板張り(但し資金不足で止めるところまで出来ず、敷いてあるだけの状態)となっており、土間にした部分から奥までが一体の空間になっている。これはさらに2階の床を一部吹き抜けにしたことで垂直方向にもつながっている。1階のたれ壁の一部は塗られていた土がすっかり取り払われ、下地の竹小舞だけになっている。意図してそうしたとのことで、確かに土壁の一部がハゲ落ちて竹小舞が見えているのはみすぼらしいものだが、こうすれば一つのデザインとして結構インパクトがある(私には塗り忘れ?と映ってしまったが)ものだ。2階は天井をはずし、ロフトに床を張るために新しい材で梁が渡されている。元からある古い材と新しい梁の仕口部分などは、試行錯誤の上、苦労して納めたあとが見え、あの高さによく納めたものだと素直に感心した。かなりいい頭脳的、肉体的トレーニングになったことだろう。2階床の一部をはずした吹き抜けはエキスパンドメタルの予定であったが、予算の都合で床板を切り抜いた形になっている。そして3月末には一応人に来てもらえるところまでこぎつけた。
 出来上がったものはどう見ても夏向きで、土間の良さ、風通しの良さはよく作られているが、京都の冬は寒いぞ!といいたくなる(このへんが素直じゃない、というかイジワルですね)。基本構造はさわってないので(2階の水平剛性はむしろ高まっているかもしれない)その点はいいのだが、2階の床の穴の周りには手すりも柵もない。2階は自分たちだけだし、もう慣れたので手すりはつけないとのことだが、やはり危ない。万が一といわず、千が一程度に転落の危険がありそうで大変気になる。危ないといえば、1階の土間にしたミセノマの中央に七輪がおいてあり、ちょうどその上の天井板が一部金アミになっていので、煙だし?と聞いてみると、なんと解体中に誰かが天井板を踏み抜いたあとだそうで、危ない!話を聞くだけでヒヤッとする。彼らの思惑では、3月末のオープニングの時に、ここの不動産屋さんや家主さんに来てもらい、自分たちの考えをアピールして信頼してもらえたら、今後の改修資金(水周り等)を用立ててもらおう、と思っていたのだが、結局来てもらえず、志半ばの状態で日々を過ごしているとのこと。また1階のフリースペースも活用できていないので、このあたりが、どう活用され、近隣をはじめ新しいつながりに結びつくのかが今後楽しみなところだ。
2004.5.1