フランス料理の2号店を町家で ─中京区・ガスパールザンザン丹羽結花(再生研究会幹事)
平成18年6月、京町家を対象とする不動産証券化事業が初めて実現した。ここでは対象となった町家の一つを再生の試みとしてとりあげる。レストランのスタッフや証券化に深く関わった情報センター松井薫氏の話などから、証券化の背景と改装実態を紹介しよう。
土地建物の所有者は、当初購入していた不動産会社から京町家証券化特定目的会社に移行している。証券発行で集められた資金は、土地建物の取得、証券化手続きの費用、京町家らしさを取り戻すための改修費用の一部に使われる。レストランの経営で支払われる毎月の家賃は、賃貸の維持管理費用、金融機関からの借り入れ利息の返済、証券購入者への配当などにあてられる。 では具体的にどのような改装に使われたのであろう。改装前の姿は、1列3室型と呼ばれる間口2間あまりの基本型町家であった。ミセノマは土間で、通り庭は吹き抜けのまま残っていた。しかし、奥にあるはずの庭先はなく、そこには既に増築がなされていた。また、ファサードは大きく改変され、アルミサッシになっていた。 証券化と関わることもあり、松井氏はいくつかのアドバイスを行った。第一に屋根の改修をして雨漏りのないようにすることである。第二にファサードをできる限り元に戻すことである。第三に内部の構造をできるだけ触らないようにすることである。つまり、京町家本来の特性を生かすようにお願いしたのである。 その結果、次の二点が大きく変わった。一つはファサードであり、1階壁位置をセットバックして軒を回復し、2階の外壁を元に戻した。格子のデザインを加えたガラス戸を入れ、本来の姿を取り戻した。もう一つは通り庭であり、吹き抜けをいかして、そのまま厨房にした。室との取り合いの壁を取り払い、対面してカウンターが設けられた。 客席は1階のみで16席。すべて土間に落としており、靴のまま出入りできる。前述のカウンター席の他、テーブルに椅子という形式になっている。入り口には通りに面して待合いのソファがある。また、ショーケースには目玉である「グレープフルーツのプリン」が並び(確かに不思議でおいしい)、テイクアウトも行っている。天井はカウンターの手前まではささらを見せており、柱も一部見せ、京町家の名残がある。壁は一部石張り風だが、カウンターから奥は明るいアースカラーで塗り壁風に仕上げている。 奥まで視界を遮る壁や建具がないため、店全体を見通すことができるが、実際に中へ進んでいくと、どんどん暗い雰囲気へ変わる。元々の増築部分をそのままにして改装したところは柱も塗り込められており、穴蔵のような空間であった。落ち着くというよりも、閉塞感の方が強い。おそらく京町家でもっとも重要な場所でもある庭先がなく、窓が一つもないためであろう。入り口以外の開口部がなく、風が通り抜けるという町家の仕組みがいかされていないのは残念であった。 |
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ちなみに不動産会社とレストランとの賃貸契約期間は10年であり、実際にはサブリースの形をとっている。つまり、資金回収に5年では短すぎるし、抜本的改修はむずかしい。建物自体の価値は適切な改修によって高めることができるはずだが、その評価の仕組みは現状できていないためである。最終的な評価は残念ながら「土地」の評価でしかない。 維持管理できる人が入れ替わりながら活用し、その中での生活文化を継承していく、あるいは一定の町並みを継続していく、というのが本来の京町家継承システムといえる。この考え方を組み込んだ、さらなる仕組みは不可能なのか。証券化においても、様々な改修においても、この事例は新たな一歩であり、次への一歩でもある。 2006.11.1 |