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京町家再生研究会

屋根瓦の葺き替え──作事組のノウハウを活かして(室町五条下る・田中家)

田中 昇(京町家再生研究会、友の会会員、作事組初代事務局長)
 昨年の秋、念願の屋根瓦の葺き替えを行ったので、この経過を報告しご参考に供したい。景観重要建造物の指定、補助金の交付決定、施工という流れで2年かかったが、「景観重要建造物指定による現況保存の義務化」「屋根、外壁の改修による建築寿命の延命」のソフト、ハードの両面で「将来に亘る保存」という目標は達成できたと思う。

 この家は私の先祖の大工「近江屋吉兵衛」が江戸時代の元禄頃に建てた家で、1864年(元治元年)の大火で焼失し明治の初期に建て直したもの。間口3間半、1列4室型の二階建て主屋、中庭、土蔵が並ぶ典型的な京町家である。1981年に父が逝去し私が相続して現在に至る。当時私は現役、子育ての最中で長岡京市に住んでいたのでその後18年間この家は空き家同然。私がリタイヤして京町家再生研究会に入った翌々年の1999年、京町家作事組設立。本部事務局として使ってもらい息を吹き返す。

 作事組の事務所が大岡さん宅に移った後は私の建築事務所として使っていたが、2008年息子が結婚しこの家に住むことになった。厨房の床高を座敷高にそろえて水回りを一新する改修をしたものの屋根瓦の葺き替えは見送った。息子に「お前の代にやってくれ」と言って。

 ところが一昨年2月、主屋の棟部分から雨漏り。瓦の光本さんに診てもらうと、棟だけでなく平の部分も相当に老朽化し全面葺き替えが必要だろうとのこと。私もチェックして状況を認識、全面葺き替えを決意することになった。屋根を葺き替えるには多額の費用が掛かるが、私も年金生活者なので改修資金を工面せねばならない。そこで光本さんには「3年もてば良い」と言って応急手当てを頼んだ。

 その直後、作事組の梶山理事長に会い資金手当ての方法を相談、公共の補助金受給の可能性について調査を依頼した。梶山さんは内田理事を担当者として選任、調査を開始。内田さんの情報では「景観重要建造物」等に指定してもらって補助金を受けるのが適当だろうとのこと。当方もこれに異存はなく早速京都市と折衝してもらうことにした。

 私も建築事務所を開設している建築屋だが今は隠居の身、京都市担当部局との交渉は内田さんに一任した。作事組の理事が京都市の担当者と顔を突き合わせて交渉を重ねれば、作事組がここ10数年蓄積してきたノウハウを最大限活かすことができるだろう、また人脈が増えて将来の作事組の活動に役立つだろうと考えた次第。

 市と交渉を始めるとこの建物は景観重要建造物の指定の可能性が高く、補助金も受けられそうだと判る。京都市景観政策課の数度にわたる現地調査や打ち合わせを経て、問題発生1年後の一昨年年末に指定を受けることができた。そして幸運なことに当年度予算の補助金枠に余裕があることが判り早速手続きを開始。半年にわたる市との交渉の結果、昨年7月末に補助金交付決定の通知書が届いたのである。

 これに並行して昨年初頭プロジェクトの取り組み体制を整えた。監修は京町家作事組、設計監理は内田康博建築研究所、施工はアラキ工務店。内田さんに依頼した設計監理業務には景観重要建造物の指定から補助金の交付手続き、市の完了検査に至る京都市との交渉をすべて含めてもらった。そして施工の専門業者として光本瓦店、左官の「さくあん」、板金の林田さんなど作事組のお馴染みメンバーが登場する。工事内容は主屋と土蔵の屋根瓦葺き替え、樋取り替え、天窓改修、外壁焼杉板張り補修、土蔵外壁漆喰仕上げなどである。

 昨年9月に着工した工事は関係各位のご努力の結果、年末に竣工した。ただ昨年秋は台風が相次いで襲来し、その余波を受けて11月末の竣工予定は1か月遅れた。しかし12月初めには父の33回忌を完成間際の家で行うことが出来た。この家に生まれ、終生この家を愛し、この家の将来を案じていた父には喜んでもらえたと思う。また2年前、光本さんに「3年もてば良い」と言っていたが面目も立った。

 私も週に2〜3回現場を覗いたのだが「昔取った杵柄」で工事の進捗状況を見るのが楽しみ(3歳の孫に会えるのも楽しみ)。施主は金だけ出していれば良いものを「顔も出す。口も出す」うるさい施主で皆さんに大変ご迷惑を掛けたことと思う。誌上でお詫びする次第。

 補助金(外観修理金額の3分の2、限度600万円)の原資は京都市民の税金である。今回の改修は「京都市民の支え」でできた事を深く心に留めて今後も保全に努めたい。後を引き継ぐ息子一家も「誇りと責任」を持ってこの家を守ってくれると信じている。

 私も1999年の京町家作事組立ち上げに関わった者として感慨深いものがある。当時は京町家を取り巻く環境が今ほど整備されてなく、改修資金の問題、法制の整備等、改善すべき問題が山積。声高に世論に訴えていたのだが、現在は相当に改善されつつある。この10数年続けてきた京町家ネットの活動が世間に認められた証しだと思う。作事組の活動実績も増えノウハウも蓄積されて学会も行政も評価するようになった。誠にうれしいことである。

 京町家ネットの皆さんのご努力に敬意を表し、ご支援に厚く御礼申し上げてご報告の拙文を締めたい。どうも有難うございました。

2014.3.1