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京町家再生研究会

あけびわ路地での暮らしの試み―島崎先生

内田康博 (京町家再生研究会 幹事)
 今年の1月号でも紹介させていただきました「あけびわ路地」のうち、初めに完成した5軒長屋の真ん中が、島崎先生の京都の住まいです。去る3月10日、「島崎先生に聞く、北欧家具で楽しむ京町家」と題してお話を伺いましたが、そこにいたる経緯も含め、紹介させていただきます。

 そもそもは今から3年程前、2015年の半ばころ、島崎先生の教え子で京都在住の方が作事組事務局においでになり、先生が京都で借家を探しているが、良い物件はありますかとの相談をお受けしました。ちょうど、あけびわ路地(まだその名がありませんでしたが)の計画を進めている段階で、完成はしばらく先になりそうですが、それでもよろしければ、ということでご案内しました。間取り等は問題なく、家賃は未定ですが話し合いで許容範囲に収まる可能性があり、改修内容についても一部入居者の希望をお聞きすることも可能との事前の情報もふまえ、現地を訪問して改修前の雰囲気をご覧いただき、大家さんとも面会いただき、前向きに進めることとなりました。

 島崎先生は東京藝術大学を卒業後、日本人としてはじめてデンマーク王立美術大学建築科を修了され、以来、北欧の家具やデザインを日本に紹介する第一人者として活躍され、あわせて武蔵野美術大学で教鞭をとり、名誉教授になられています。80才を超える今も現役で活動され、お住まいのある東京を中心に、日本中あちこちに拠点をもっておられますが、改めて日本の歴史、伝統、文化、暮らしについて実地に学ぶために、京都に家を探すこととされました。そのなかで、これまで得た家具デザインの知恵を活かしたいとの意向です。これまでの経験から、地域のことを知るには、ホテル住まいではなく、是非、家を借りる必要があるとのこと。京都の街中で、京町家が立ち並ぶあけびわ路地は願ってもない条件で、改修前の段階であったことも理想的でした。早速、賃貸の条件を整理し、先生のご希望を反映した追加改修工事費の入居者負担分についても許容範囲に収まることを確認し、賃貸契約を結びました。

 先生のご希望にあわせ、表の間を玄関と一体の土間として、テーブルとイスなどの家具を置く接客スペースとし、階段には両側に手すりをつけました。2016年の6月に入居され、その後、2階にトイレを新設されましたが、あとで取り外すこともできるように配慮されています。

 先生はご夫妻ともすべてイス座の生活のため、板の間、畳の間にもご自身の膨大な家具のコレクションのなかからイスとテーブル、照明器具等を配して使い心地や空間とのバランスを確かめておられます。入居後2年弱が経過し、実地に体験するなかで、やはり目線の高さなど、そのままでは馴染まない部分もあり、改めて和の空間にあった家具を構想されているようです。和室の造作や室礼は、畳に直接座ることが前提でデザインされていますし、北欧の室内はイスに座ることが前提です。これまでも町家改修のなかでの懸案となっていましたが、私たちも改善策を検討し、解答を求める努力は十分ではなかったかと思います。先日のお話の会ではその点をふまえ、「まちやくらしの会」をつくろうとの先生からの発案に賛同があつまり、家具や照明器具について、深い造詣と厳しい目をもつ島崎先生から教えを請いながら、和室の伝統を活かしつつ、現代の生活スタイルにあった住空間とするための方策やデザインについても検討していきたいと考えています。

2018.5.1