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京町家情報センター
■京町家に移り住んで…吉村塾

 今出川大宮は以前は「千両が辻」といわれて大変賑わったところですが、今回の町家は大宮通を少し南に下がった所にあります。比較的大きい町家が2つ並んで空家になったものの有効利用を京町家作事組を通じて相談されたものです。そのうちの南側の町家を学習塾の経営をされている吉村さんに借りていただきました。吉村さんに学生たちがインタビューします。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉

吉村塾ファサード
――この塾は、一般的な予備校や塾と、全く雰囲気が違いますが、なぜ、町家で塾をしようと思われたのですか。
 子供はもともと勉強はやらなければならないものだと、ちゃんと分かっているんです。そこに親から「勉強しなさい」と言われたり、学校や塾のように、決められた時間の枠の中で勉強しなくてはならない状況に押し込められると、ストレスを感じて反発してしまう。
 もっと自然に自発的に勉強ができる場所があれば、子供たちは自分から勉強に没頭していきます。そのための空間として、土壁で、できれば畳敷きで、開放された空間が必要なのです。京都でそういう場所といえば、町家しかありません。
 ここでは小1から浪人生までさまざまな生徒がいます。好きな時に来て、好きな時に帰ればいいんです。学校や家で嫌なことがあった子供は、ここに来てぼーっといろいろなことを考えて、自分で感情を解決しようとします。漫画を読んでいる子供も、自然と自分で勉強に戻ります。こういった塾の雰囲気は、町家という環境によって作られている部分が大きいと思います。

――町家に実際に住んでみて、よい点、またはここは合っていないと感じる点はありますか。
 よい点は皆さんが言うように、夏を旨として建てられた住宅ですから、夏が過ごしやすいですよね。家の中にいても、今でもこれだけ風が通るでしょう。また冬も下でストーブを焚くと上の階まで、すぐに暖かくなります。天井の板がそのまま2階の床板ですから、ストレートに暖気が2階へ上がります。
 生活に合わない点ですか……。毎日通勤して、会社に行ってという生活なら、やっぱり合わない点も出てくるでしょうが、今のように職住一致での生活をしていると、特に不便を感じることはないです。私は、基本的に町家に感謝している人間ですから、町家の悪口は言えないですよ(笑)。今は、ご近所からたくさん生徒がきてくれていますが、それは、こういう建物だから、という部分も大きいと思います。

――最近、「再生された町家」を多く見かけるようになりましたが、町家の再生についてはどう思われますか。
 今はきれいに白壁に塗りなおしてある町家が多いですよね。それは「見せるため」の町家、商売のためだけの町家なのだと思います。しかし、町家はもともと、そこに住んでそこで商売をするという職住一致が基本です。私は、町家に住む人は、町家で商売をしなければならないと思っています。観光資源としての町家の利用というのも、そういう見せるための町家を増やすということですから、もうちょっと考えなければならないのではないかと感じています。

吉村塾・内部
 初めは私も、壁を白壁にとまではいかないにしても、みんなきれいに塗り替えようと思っていました。でもここに通ってくる子供たちが10年、20年先に大人になった時に、建ってから100年もたった町家で勉強した記憶は、強烈にのこっているだろうと思われますし、それがきれいに塗り替えられた町家よりは、ありのままの姿のほうがより強くそこで過ごした記憶が残るでしょう。それが100年の重みだと思いますので、このまま使うことにしました。

――このあと台所の井戸の水をくみ上げて、その水に触れさせていただきました。普段触っている水道の生暖かい水に比べて、とても冷たかったです。 ありがとうございました。