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京町家情報センター
京町家、記憶の復元 ー記憶の中の京町家、見つけますー

 その建物は、終戦直前まで確かにあった。烏丸御池を少し西に入った南側、両替町の角から2軒目のところに、確かにあった。ベンガラ塗りの出格子、大戸の上の屋号の入った街灯、2階の虫籠窓、夜には格子から中の明かりが漏れて道路にシルエットを描いていた。今はなくなってしまった、自分の生まれ育った町家を模型で復元してほしいと、訪ねてこられた。材料は1枚の「青写真」とセピア色の古い写真、それと本人の記憶。時間と出来の保証はできないが・・・といいながら「作ってみましょう」とお受けしてしまった。内玄関を入ったところに大きな陶器の鉢があり、金魚が泳いでいた。塀は木賊貼で横の壁は錆聚楽、走り庭にはおくどさんと流しがあって、井戸もあった、1階の座敷には宣徳の火鉢があり雪見障子越しに庭が見えた・・・断片的な記憶を繋ぎ合わせて・・・

 出来た!20分の1というスケールではかなり細かい所まで、作りこむ必要があり、長い時間がかかったが、とにかく出来上がった。これを眺める依頼者の目の中には、当時の店の賑わい、走り回った家の中が鮮やかに再現されている。終戦直前、「強制疎開」で壊され、その後、御池通りの拡幅であとかたもなくなった建物が、記憶のなかで生き生きと甦った。同級生たちにも早速見せる、と話すその瞳には、少年のころの光が宿っていた。

京町家情報センター〈事務局長 松井 薫〉