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京町家情報センター
■京町家に移り住んで…D邸

 西陣の中のよく手入れされた町家が空いたため、貸したいとの相談が情報センターにありました。昨年の暮れに賃貸が決まり、引っ越されたばかりのお宅にお邪魔して、いろいろ話を伺いました。今回も情報センターを手伝ってくれている学生のインタビューです。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉
――以前はどのような所にお住まいだったのですか。
 生まれ育ったのは全く洋風の家で、畳の部屋というのはありませんでした。よそのお宅で畳の部屋に通されたりすると、足をどうしていいかわからない……という感じで。その後、外国に住んだことがあって、むこうにいると自分が東洋人だということが意識されて、服装でも日本人の自分が似合うものってなんだろうと見直すようになりました。一時期、京都の田舎の造りの家に住んでいましたが、ここへ来る直前はマンション暮らしでした。田舎造りの家からマンションに移った時には、風が通らなくって、息苦しいと感じてしまいました。


――実際にこの家に住んでみてどんな事を感じていますか。

 この家は家自体は古いものですが、キッチンなどの水廻りは近代的にされています。大家さんがとても大切に、そして実際に住むということを考えて手を入れていらしたのだということに感激しましたね。こちらが気がつかないようなほんの数ミリの扉の隙間も、大家さんが直しておきましょう、とおっしゃってました。とても質の高い家だと感じています。こんな家に住んでいると、お客さんも呼びたいな、と思います。
 最大の課題は寒さですね。田舎造りの家で寒さには慣れていたのですが、1年のマンション暮らしでもうなまってしまったみたいで。引っ越してきた日がちょうど大雪の日で、あの時は本当にこれでよい選択だったのかなと思ってしまいました。すぐにストーブを買いに走りました。

――京都の町家も減ってきていますが、それについてはどうお思いですか。
 様々な活動もされていて心強いのですが、その良さをつないでいくにはまだまだ足りないのではないかと思います。「京都に住んでいる人は月に一度必ず着物で過ごすこと!」みたいな決まりを作って、強制的にでも和風の良さに触れる機会をつくったらどうか、ぐらいに思っています。布団を敷いて寝るとか、家具はあまり置かないとか、やはり生活の全てを町家に合わせてみるようにして初めてその良さがわかるのだと思います。
 日本人は自分たちの誇れるものをどんどん捨ててしまって、すぐに壊れてしまうようなものばかりをたくさん買いこんできましたよね。誇れる部分なんてもうあまり残っていない。すごく恥ずかしいことをしてきたんじゃないかと思いますね。例えば、着物なんかにしても、一般的にはもうほとんど着ないでしょう。特に男の人が着物を着ることなどなくなってしまっている。それでも京都に住んでいると男の人でも着物を着ている人をけっこうよく見かけます。アジア人の体型ではスーツにネクタイ姿はムリがありますが、着物だと、スーツの時に欠点だったものも隠れてしまって、とても格好よく見えますよね。お正月には、この辺もそんな着物を着たお父さんたちが大勢通っていて、かっこいいなあと思って見ていたんですよ。
 そんな自分たちに似合った、誇れる暮らしがこの京都の町家の中にはあると思っています。

――台所には井戸が残っており、太い縄でつるべを引き上げると、冬でも暖かい井戸の水が汲めました。町家を通じて、京都の底に流れるものに触れた気がしました。