東山の麓、哲学の道近くの3軒長屋の一つに、最近引っ越して来られた溝井さんに、いつものように学生たちがお話を伺いました。 〈松井 薫(情報センター事務局長)〉
──ここはいつ頃からお住まいなのでしょうか。 この3月末から、仕事の都合で移ってきました。小さい子供がいるので、自然のあるところにと思ってここに決めました。ここは環境抜群ですよね! 少し行けば山があって、自然が多く、見所と言う点でもたくさんありますし、今は蛍が見られる哲学の道も近いですね。 交通の便もよくて、20分くらいバスに乗れば市街地に出られますし。 そのかわり、虫がすごいですが(笑)。カエルやヤモリもよく出ます。 ──京都に引越してこられる以前は、どのような所にお住まいだったのですか。 東京の文京区、千石という下町に住んでいました。周りには東京大空襲を生き延びた長屋が多く残っているようなところです。住んでいた家は、土間のある長屋です。そこは、土壁に板が張られてしまっていたりと、なんだか中途半端に改修してあって、ここのように風情はなかったですね。京都に引っ越したというと「京都でファミリータイプのマンションを探すのは大変でしょう」とよく知人に言われるのですが、「いえいえ町家に住んでいるんです」と答えています。マンションという選択肢はなかったんですよ。 ──なぜマンションや新築の家に住もうと思われなかったのでしょうか。 高層マンションに住んだこともあったんですが、騒音が気になりますし、子供の泣き声に敏感になってしまうし、隣の人や自分の部屋の上下の人にも気を使わないといけないと思って。人付き合いが希薄になりがちなマンションは選択肢になかったですね。 新築の家について言えば、新築の家は、変なにおいがしませんか? シックハウスも怖いですし。古いから衛生がよくないと思われるかもしれませんがそんなことはありません。この家もよく見ると隙間だらけですが、その隙間があることで空気がうまく通るのではないでしょうか。今建っている新しい家は、古くなるほど価値がなくなってしまう気がしますが、町家は、古くなればなるほど価値が出てくる気がしますね。 ──引っ越してきて、どのような印象をお持ちですか。 自宅周辺には、小さい子供さんが少ないですね。お年寄りの方が多いなあと思います。そのせいか、近所の方からよく声をかけていただきます。京都では、バスの中などでも気軽に声をかけてくださる方が多いです。子供をあやしていただいたりと。これは東京に住んでいたときにはなかったことですね。ご近所も、よい人たちに恵まれています。 それと、町家に住んでいると子供が鍛えられるのではないかなあと思います。自宅周辺には自然がたくさん残っていますし、「自然と子供を触れあわさないといけない」と言われる方もいらっしゃいますが、そんなにがんばらなくても自然の中で遊ばせることができます。ご近所との交流も活発なので、子供も情緒豊かに育ってくれています。 ──自然豊かな環境の町家で日々育ち、近所の人にもかわいがられている赤ちゃんの笑顔に、自然体で暮らす若いファミリーの幸せがあふれていました。 |