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京町家情報センター
京町家に移り住んで──浄敬庵

 京都の東山の地、神社仏閣も多い閑静な住宅街の中にあり、小ぢんまりした日本家屋に「浄敬庵」の表札がかかっています。茶道の心得のない人にも気軽にお茶の体験をしてもらいながら、お茶の心を伝えようとされている松本さんに学生たちが話を伺いました。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉

――なぜ町家でお茶事をしようとおもわれたのですか。
 幼い頃から茶道に親しんでまいりました。あらゆる茶事の中でも特に「夜咄の茶事」に心奪われ、目に見えない精神性を強く感じ、以来心酔しています。その感動を少しでも一般の日本の方はもちろん外国の方へもお伝えしたいと思い浄敬庵を開きました。
 以前は大阪に住んでいまして、家もオートロックのマンションでしたので、京都に移ってきてお茶事をするなら、町家に住みながらそこでやりたいと思っていました。この家よりもう少し広いほうがいいかなと思っていたのですが、浄敬庵までの素晴らしい景観と静けさが気に入り、ここに決めました。この家の2階が生活スペースで、1階はお茶のためのスペースです。生活空間は2階だけと決めていましたので、余分なものは全て捨てましたね。

――この家の気に入っているところや苦労するところは?


浄敬庵のお庭
 苦労するといえば、洗濯機が外にあるので少し不便ですね。すきま風が寒いかな、と思うときもあります。でも町家に住む前にある程度の覚悟はできていましたし、2月に住み始めて町家の洗礼を受けましたので、今は寒さを楽しんでいます(笑)。いいところは、鳥の声が聞こえたり、窓の数が多いので外や自然とつながっているのが感じられるところです。マンションは壁が多くて圧迫感があります。でもこの家には庭や窓があるので開放感がありますね。自然を大事にし、四季を敏感に感じながら生活に取り入れることは、お茶の精神と町家に住むことの共通点とも言えるかもしれないですね。
 この家に住んで1年が経ちましたが、1階部分は徐々にお茶室の顔になってきました。

――一人でお茶事をすべてこなすのは大変ではないですか。
 そうですね、通常お茶事では2、3名の方が動いていますね。全てを一人でというとみなさん驚かれます。でも、私は、少しでも茶道の真髄でもある「一期一会のおもてなしの精神」を感じていただくためには自分一人でした方が、お客さまにも伝わりやすく、自分らしさにもつながるのではないかと思いました。またスイスでお茶を教えるお手伝いをしたりして、外国の方へも茶の湯を紹介いたしました。その時、茶道は国境を越えてその素晴らしさを共有することができることを実感いたしました。
 茶道ではもちろん、形や作法は重要な意味を持ちますが、ただその表面的なイメージだけにとらわれ、興味をなくしてしまったり、正座ができないから、お作法を知らなくて恥をかきたくないからと尻込みする前に、まずは、その場に身を置き、心で感じることが大事だと思うのです。浄敬庵はお茶のクラスではありませんので、本来の修行とは少し違います。
 作法よりもその空間を味わって、それぞれの感性で何かを感じ取って楽しんでもらいたいのです。始めてまだ1年なので、この形が完成ではありません。私自身もまだまだ未熟な点は沢山ありますので、お客様との交流の中で日々精進させて頂いています。また1日1組が限界なので、お客様は本当に少人数になります。しかし主客一体となる一座建立は究極のおもてなしの中で素晴らしい体験となるでしょう。自分が体感したことをより多くの人と共有すること、またその人の感性で新しいものを感じ取ってほしいということを伝えるためにおもてなしをこれからも続けたいと思います。そして訪れるお客さまの心が少しでも潤って清らかになっていただけたら嬉しく思います。

――インタビューを終えたあと、美しい庭を眺めながら、お抹茶をいただきました。おもてなしの心が体に沁みました。

2005.5.1