• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家情報センター
京町家に移り住んで──金築邸

 町家に住むことになった人の中には、何らかの事情で次の住むところを探すことになって、どういう生活をするかということも含めて諸条件で絞っていくと、たまたま町家にたどり着いた、という人もあります。今回はそういうケースの方のお話を伺いました。

〈松井 薫(情報センター事務局長)〉

―以前はどんなところにお住まいだったのですか。
 ここに来る直前の住まいは築40年ぐらいの長屋でした。これまでに数えたら15回も引越しをしています。その中には、ピカピカ系のもあり、どろどろ系のもありでさまざまでした。今回も町家に絞って探したわけではないのですが、いろいろ条件を絞って探しているうちに偶然町家に行き着いたということです。住んでみると、いままでのどの家よりもここが一番気に入っています。

―町家のどんなところに魅力を感じられていますか。
 この家に引っ越してきて、水道の開栓手続きに水道局へいったのですが、1軒ごとのカルテのようなものがあって、それを見るとこの家は昭和3年の12月に初めて水道が通っています。そんなときからこの家があったのだ、と思うだけでもワクワクしてきます。
それから家のつくりとしては、ミセの間と通り庭が土間になっているところがいいですね。今、燻製作りにハマっているのですが、こういった煙のでるものとか、マンションでは作る気にならないのですが、ここだと気兼ねなく作れます。魚も切り身のパック入りでなくても、1匹丸ごと買ってきてもさばけますし、梅酒やラッキョウなどを仕込んでも保存場所に困りません。これだけバックヤードが広いと、ビン・カン・プラスチック・紙・牛乳パックなどゴミの分別も億劫には感じませんね。

金築邸
金築邸

―町家に住んでみて気になるところは?
 ミセの間と通り庭の土間の部分が床の水はけのために排水口にむかって勾配がついています。土間に机や椅子、冷蔵庫などものを置くときにまっすぐでないのが気になります。それから縁側の床板にスキマがあって下が見えるのもびっくりしました。よく見ていると2階の窓のスキマとか、あちこちから外が見えているのです。今年の6月に引っ越してきて、夏は結構快適に過ごしましたが、風通し良くあちこちにスキマがある広い家で、京都の冬を無事に越せるのかが心配ではあります。

―町家に住んでみて変化がありましたか。
 「衣替え」という言葉は母は使ってましたし、衣替えをしていました。でも最近はすっかり意識しなくなっていたのですが、この家に来てから、ああ、衣替えの季節なんだ、と服装も意識するし、家も冬に向かって心構えをする、ということが自然と感じられるようになりました。それから自分が今までに気に入って集めていた家具や雑貨がこの空間で何の違和感もなくぴったり収まっており、さらにこのボンボン鳴るネジ式の時計なども中古品を探して購入しました。カチカチという音がうるさいかな、と気にしていたのですが、今では、カチカチ音がこの家の鼓動のように聞こえています。最近気がついたのは、蛍光灯の照明器具をすぐ消したくなるということです。今までの家ではつけっぱなしということもよくあったのですが、この家では、あの蛍光灯の光がどうもなじまないので、読み書きなどの必要がある時以外は、自然光と最小限の白熱灯だけで過ごします。ほの暗い落ち着きのある空間のよさがよくわかります。
またここに住みだしてから、同じような町家が目に付くようになってきました。自分の家の外観もいい感じにしておきたいと思うし、家の前はパブリックな空間だけど、住んでいる人がちゃんとしていく責任がある、と思うようになりました。よく言われている「カドハキ」も自然にするようになりましたし、やっているうちにその合理性もわかってきました。

―町家と意識することなく住みだしたとしても、素直に入り込んでもらえれば、町家自体が継承すべきものを伝えてくれるのだ、との思いを強くしました。

2006.11.1