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京町家情報センター
京町家に移り住んで──田上邸

  滋賀県で伝統構法による新築で自宅を建てられた田上さんが、やっぱり町家に住みたいと、この春、下鴨の戦前木造住宅に移り住んで来られました。やっぱり町家だと思われたあたりのお話をお聞きしました。

松井 薫(情報センター事務局長)

――伝統構法で家を新築されるまでのいきさつをお聞かせください。

田上邸
田上邸

 信州に30年ほど住んでいましたが、もともと出身が関西なので、ゆくゆくは関西で家を探そうと思っていました。マンションには住む気はなく、できれば京都で、それも町家で住めればと4、5年前から本気で探し始めたのですが、京都では価格も高く、だんだん周辺まで範囲を広げて、彦根や近江八幡あたりでわらぶきの家はないかと探していました。そんなときたまたま出会った工務店が、伝統構法で家を作っているということで、初めは新築することは全く考えていなかったのですが、比良に伝統構法で家を建ててもらうことになりました。
 この時の工務店の仕事の進め方が、今までとは全く違っていました。契約書で内容を縛るというようなことではなく、心底からの信頼関係の中で、周りの環境も出来るだけ壊さないように、少しでもいいものを協同作業で作っていく、というものでした。私がお願いしたのは、2階の比良を借景にした大開口の座敷と、「河井寛次郎記念館」のようないろりのある吹き抜けの2点だけで、あとは信頼して全て棟梁に任せましたが大変満足した家作りでした。住んでいた4年間で延べ150人は人が来ましたね。

――その伝統構法で作られた家から、町家へ移られたわけは?
 娘がこの春、大学を卒業しまして、親の影響もあってか、京都の町家に住みたい、と言い出したので、慌てて情報センターから物件を取り寄せ、どうせなら葵祭りに間に合わせようと急いで移り住んだというわけです。
(娘さん) 私は信州で生まれ、育って、大学は東京の大学に行っていたのですが、1年間の留学でエジプトのカイロに行きました。が、そこにはイスラムの建築はなく、緑もなく、あるのは東京と同じ大都会でした。それに比べて、旅行で行ったイタリアなどでは、歴史的な建物が町の中に保存されていて、その国や地域の文化的背景が感じられて住環境の大切さを知ることになりました。父が作った滋賀の家もとてもよかったのですが(友達もたくさん連れてきました)、生活文化の根付いている京都で住みたいと思い、迷わず京町家に住みたいといいました。

――移り住んで3ヶ月ですが、実際住んでみていかがですか。
 まず移動手段がクルマから自転車に変わりました。滋賀の家はクルマがないと生活出来ませんでしたが、京都は自転車が一番ですね。この前も東寺の弘法さんの市に自転車で行きましたが、鴨川沿いに行けば、ノンストップで早いものです。それに京都はお祭りや行事が、探せば毎日どこかで行われていて、そういったものを見に行くのも楽しみです。住まいとしては、今は確かに暑いですが、小さいながら庭があって、緑があって、ここを開け放てば風が通るので十分エアコンなしで過ごせますし、問題ありません。近所の方とも程よい距離感で付き合えるので居心地がいいです。これからは少しずつ、京都の文化面にも触れていきたいと思っています。

――楽町楽家の会場でもあちこちで田上さん父娘をお見かけしました。「河井寛次郎記念館」での講演にも参加されていましたが、田上さんの思い入れのある空間だっただけに、「まさかこの空間でこんなお話が聞けるなんて、思いもよらなかった。それまでの人と人の出会い、人と建物の出会いが、今を導いてくれたような気がする」と思われたとのことでした。

2008.9.1