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京町家情報センター
京町家に移り住んで──T邸

 広い幹線道路から1本入ったところにある町家は、幹線道路側にビルなどが建っている関係上、結構静かなものです。今年の暑い盛りにそんな町家に移り住んでこられたTさんに話を伺いました。

松井 薫(情報センター事務局長)

 
――町家を探そう、というきっかけは何だったのでしょうか。

 生まれは大阪の船場の問屋で、店、従業員の寮、家が一緒にあるようなところで子どもの頃は過ごしました。近所の人たちは、こちらは知らなくてもむこうは「あの店の子」と知っている、というような環境でした。ですから子供心にちょっと怖いというか、へたなことはできないな、という感じを持っていました。京都は学生のころ住んでいましたが、この町家に住むまでは大阪でマンションをいくつかかわりながら住んでいました。陶芸をやっているので土間のある家が必要で、「町家」にたどりついたのですが、どこで探せばいいかわかりませんでした。そんな時、楽町楽家で「住みたい町家を探しに行こう!」という企画があって、それに参加して京町家情報センターを知りました。

T邸
T邸
――マンション暮らしと比べてみて、町家はいかがですか
 学生時代には友人で町家に住んでいる人がいたのですが、実はそのときは、こんなところに住みたくないな、と思ってました。それでマンションに住んでいたわけなのですが、この町家を探す前に、コンシェルジュがいるようなタワーマンションも見に行ってきましたが、すごくきれいなのですが、どうもしっくりこない。30階あたりの部屋を見せてもらいましたが、何か気持ちが悪いのですね。あまりに作られすぎているのが、どうも居心地が良くない、と感じました。それに比べて町家は体になじむというのでしょうか、いいですね。若い頃イヤだと思ってましたが、住んでみるといいところがたくさんあるのがわかります。マンション暮らしだった頃は、家に戻ると真っ先に窓をあけて空気の入れ替えをしてましたが、町家では、昼間留守にして夜帰ってきた時でも、空気がこもっている感じがなくてすーと入れます。トイレが庭のところに部屋から離れてあるのも、ちょっと困るかなあ、と思ってましたが、生活してみると、別にどうということはありません。すぐに慣れました。

――1階の床が全部杉板張りになっていますが。
 これは陶芸やガラス工芸の作業をするのにいいのと、犬を飼うので板張りにしたいと言ったら、この杉板を張ってくれました。板張りというとマンションのフローリングを想像していたので、初めは戸惑いましたが、あたたかくていいですね。ただ、やわらかいので傷つきやすいですが。表の格子のところもガラス戸も何もなくて、スースーしていたのですが、白いアクリル板を入れてもらったらずいぶんあたたかくなりました。町家に引っ越してくる時に、夏は暑い、冬は寒いということは覚悟してきたので、住んでみると思ったより快適です。私は古いものが特に好きとか、骨董趣味とかではないので、自分の生活しやすいように板張りにしたりすることには特に抵抗はありません。何よりラッキーだったのは、陶芸の窯を置くことができて、犬も飼っていいというこの町家に出会えたことです。

――ご近所付き合いはいかがですか。
 引越しの時に大家さんが一緒にご近所の挨拶に廻っていただいたので、スムーズでした。そんなに行き来があるわけではありませんが、町内会に入っています。こちらへきてちょっと驚いたのは、京都の人と話していて、どこに住んでいるの?と聞かれて答えると、ああ、○○学区やね、と学区で話をされることです。京都のまちなかでは「学区」というのが生きているのだなあ、と思いました。

――近くにある町家の店も、入りにくい気がしてましたが、巡ってみます。そうすれば、近所に新しい知り合いも増えますし、と話される横の机には、製作されたガラスの品々が吹き抜けの天窓からの光を受けて輝いていました。
2009.1.1