• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家情報センター
京町家に移り住んで──松田邸

  西陣には、織機の作業をするための織屋建という形式の町家があります。通り庭を奥まで入ると、庭に面した奥の部屋が吹き抜けとなったものです。その織屋建の町家を改装して住み始められた松田さんの話をお聞きしました。
藤井博周(京町家情報センター:八清)

――何故、京町家に住もうと思われたのですか。
 実は夫婦2人とも寒がりで、暗い、寒い、使い勝手が悪いというイメージの町家は、もともと住む家としての選択肢にはなく、新築のマンションを探していました。そのときにたまたま「あったか町家」というキャッチフレーズの改装町家のモデルルームが目に付き、行ってみたら、町家でも結構改装すれば自分たちの思いにもかなう家になりそうだと思いました。それと同時に学生時代に初めて町家に訪れた時の、奥へ行くにつれて暗くなっていくのに、突然一番奥まったところで庭からの光が非常に明るかったことや、時代を経て大切にされているからこそ、かもし出される存在感や雰囲気を思い出しました。そんな町家が現在解体され、なくなっていっている、先人の知恵の詰まった建て方や、今ではなかなか手に入れ難い材料がたくさん使われているのに……、と町家に対しての関心が出てきたのです。その後この家を初めて見たとき、町家が連続して残っている街並みに自分たちが加わることで、この町並みを存続させていくことにも参加できる、と思い、改修して住むことに決めました。

――住み出してみて、以前のお住まいとの違いは?
 第一は、生活が太陽を基準にして、朝型になったことです。今の家にはカーテンもつけてないので、朝は朝日に起こされて一日が始まります。これが、苦痛ではなく、結構快適で、疲れにくいみたいです。また床の木や壁の土に囲まれていると、以前住んでいたマンションと同じ温度でも、体感温度はずっと和らいで感じられるので、とても快適に過ごしています。
 依然と比べて不便になったところは、特に感じないのですけれども、あえて言えば、掃除をするのに以前のマンションは同じフロアでしたが、今回は1階と2階があるため、上下の動線が増えたこと、それと虫が多くなったかな、というところです。あえて言えばですけど。

松田邸
松田邸

――お気に入りの場所はありますか。
 奥の吹き抜けの部屋がいいですねえ。明るくて広がりがあって。庭に続いている感じも以前初めて町家を訪問した時に受けた感動が、そのまま再現できています。またそこに至る内玄関の部分が、いきなり吹き抜け空間に入るのではなくて、ある種のクッションになっているのが、よくわかります。玄関は入口にあるのだから内玄関というのは不必要にも思えるのですが、実際住んでみるとその役割がよくわかります。庭は夜の照明が入った光景もまた違った印象で、とてもいいです。台所の上の部分がロフト風になっているのですが、ここから下のリビング空間を見るのは、とても気に入っていて、ここへ上がるとついついはしゃいだ気分になってしまいます。また、以前からこの家にあった建具や家具を上手に調整してくれて、各所で使っていますが、これが、町家の空間の記憶を刻んでいるようで、しっかりと受け継いでいる空間だということを思わせてくれています。
 初めて町家に来ることになった友人たちも、一様に驚き、楽しんでくれます。来てくれたみんなが、喜んだり驚いたりしてくれるのを見るのも楽しいものです。この前、母が泊まっていったのですが、朝、格子越しに朝日の柔らかな光がさして、布団の上に格子の影が映るのを、ほんとうにきれい、としばらく眺めてました。夜に格子からもれる照明のあかりも、すごくきれいで、この町並みに参加しているという実感がわいてきます。

――住み出してまだ3ヶ月とのことなので、町家暮しのいい時期しか経験されていないわけですが、寒がりのお2人が、初めて冬を過ごされる時にどのような感想を持たれるか、興味のあるところです。が、この分だと大丈夫のような気がしてきました。

2009.7.1