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京町家情報センター
京町家に移り住んで──N邸

 七条通を東大路からさらに東に坂を登っていって、南へ少し下ったあたりに、ぽっかりと前庭付きの家が並んだ風景が現れます。今回のNさんはその中の1軒にお住まいになって1年余り。現在のお住まいになっての感想をお聞きしました。
佐々木雅明(京町家情報センター:名神不動産)

――京都にお住まいになったのはいつごろですか。
 私は福島県の出身なのですが、大学進学のときに京都の大学にいくことになり、それからずっと京都暮らしです。10年ぐらいになります。これまでは、マンションに住んでいました。マンション住まいもカギひとつでセキュリティーも保たれ、メンテナンスもこれといって必要なく、合理的にできているのでいいのですが、どうも落ち着かない。上下左右にあまり知らない他人が同じようなハコの中に住んでいるのですが、そのわりに静かなんだけれどどこかよそよそしい、というんでしょうか。私は仏像彫刻の仕事をしているのですが、集中して仕事をして、集中から解放されて帰ってきてもどこか圧迫感があって、心底くつろげない感じでした。

N邸前の路地
N邸前の路地

――今の町家に住もうと思われたのは何故ですか。
 別に町家を意識して探したわけではないのですが、いくつか見ている中で、ここを見たとき、まずここの路地の雰囲気が気に入りました。緑が多くて静かだし、いかにも京都のちょっと郊外の住宅という感じがとてもいい。特に家の前に庭があるのが、家の中からでも道路との間のクッションになっていて、とても落ち着くことができます。駅からは少し遠いですが、広いわりに家賃も手ごろだったこともあり、ここに決めました。

――お住まいになってみて、いかがですか。
 そりゃマンションに比べると家自体が古いですから、建具の建て付けひとつとってもスキマがありますし、鼠も天井裏を走ります。こんなんマンションではありえません。冬は寒いですし、特にトイレと風呂場が裏のスペースに家から離れてあるのでちょっとつらいです。冬に風呂に入る時は、こちらの縁側のスペースで服を脱いで、外気を切り裂いて風呂場に飛び込む(ちょっと大げさですが)といった使い方になります。でも何といっても前庭の景色を見ながら、木の柱と土壁に囲まれた空間にいると、くつろげます。気分がゆったりと落ち着くことができるのが魅力です。また京間の間取りなので結構内部が広く、いろいろインテリアを工夫したりして楽しんでいます。外の町並みのいい雰囲気を残しながら、内部は住む人によって個性が出せるのも町家のいいところかなと思います。特に京都以外の友人とかが来ると、京都らしい、といって喜んでくれるのもうれしいものです。

――ご近所とのお付き合いはいかがですか。
 ここは家主さんもこの並びにお住まいですし、こちら側の戦前に建てられた並びにお住まいの方々は、落ち着いた住まい方をされている人が多く、ちょうどいい距離感でお付き合いさせてもらっています。この路地はおもしろくて、向いの並びは、比較的新しい家が続いていて、こちらには若い家族が結構住んでいて、子供たちもいますので、通過交通のない本当に静かな場所ですが、子供たちの声が時たま聞こえてきたりして、生き生きとしたあたたかい感じで、いいもんです。マンションも共有の廊下があってそこを通るのですが、路地の道を共有している近所の人たちとのようなお付き合いはありませんでした。路地には人をつなぐ何かがあるみたいです。

――こうした若い人が、古くからあるご近所付き合いの中に、自然に溶け込んで住んでいる様子をお聞きすると、町家住まいは、若い人にもいいもんだと受け入れられるということが再確認されて元気が出ます。

2009.11.1