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京町家情報センター
京町家に移り住んで──O邸

 山科区から中京区へ家族4人で引っ越して来られ、京町家に住まわれて7年。仮住まいのはずが、今では京町家での生活を楽しんでおられる様子のOさんにお話をお聞きしました。
〈聞き手:城 幸央〉


──町家に住まれることになるまでのいきさつをお聞かせ下さい
  私の自宅は山科でしたが夫婦共働きで子ども二人の保育園の送り迎えと仕事の都合で仕事場に近いところに住もうということになりました。特に古い家には興味はなく、この家に住む前はマンションに住みました。ちょうど南西の角部屋で日当りが良く、小ぢんまりとしたよい部屋でした。ところが夏、コンクリートの輻射熱で暑いのなんの、夜も寝られぬ状況で音を上げてしまいました。そんな折、知人が住んでいた家をでるので後に入らないかという話がありこの家を見に来た訳です。生まれ育った家も古く、違和感はなかったのですが、脱衣場もなく水回りは狭くて使いにくそうで、トイレは和式です。
 庭と段差があり子どもたちは喜びましたが妻はかなり抵抗しました。
 良いところが見つかるまでの仮住まいということで住むことになりましたが……。
 そんなことでこの家に行き着いたのが町家に住むきっかけになったのでしょうか。

──実際に住んでみていかがですか? 住み始めて生活の変化などはありますか?
 そうですね……夏の暑さはしのぎ易く、冬の寒さは身に沁みるという感じでしょうか。
 寒さについては1つわかったことがあります。今まで住んでいた新築の家は、暖房で十分に部屋を暖めて、真冬の寝起きも寒くなく快適な生活を送っていました。今、考えるとそのせいだったと思いますが、よく子どもたちが風邪をひきました。シーズンに2度、3度病院に連れて行くのが当たり前という感じでしたが……この家に引っ越してきてからはというと、風邪をひかなくなったのです。体が寒さに抵抗力を持ったおかげで風邪をひきにくくなったのは事実です。ただ、ファンヒーターを全開にしても20度まで上がらないこの家はエコというより燃料の無駄かもしれませんが……病院代はかからなくなりました。
 生活はとかく不便を感じます。家が狭いこともあり、人を押し退けて通らなければならず、また、人の横を通らないと奥へはいけません。その不便さが、コミュニケーションを生みます。子どもが帰ってきて親と顔も合わさず自分の部屋にこもるなんてありえません。
 一日中、怒号が絶えない我が家です。寒さの体感、道行く人との接近感、虫たちとの親近感どれをとっても前向きに付き合えば、なかなか味わいのあるものかも知れませんね。

──ご近所との付き合いはいかがですか?
 お蔭様でご近所の方々には家族共々かわいがっていただきております。中京区は敷居の高いイメージがあり、お付き合いできるか正直、不安でしたが……本当に良いお町内で皆さん愛想もよく私たちを受け入れてくださいました。われわれが引っ越してきて半年後の4月、「順番なので町内の役をやってくれないか」というお話に右も左のわからないことだらけなので「ちょっとでもお役に立たないと」という気持ちからお引き受けしました。少しのお手伝いのつもりと思ったら、なんと町内会長を押し付けられました。本当に良いお町内です……とはいえ、私の町内会長の時、皆様のご協力もあり町内行事のクライマックスである区民運動会に優勝争いをしてなんと、第3位!例年なら下から1位、2位だったそうで、皆さんと大いに盛り上がりました。そんな1年目でしたので仲間にしていただいたような気がします。
 今まで、お年寄りが多く子どもも少なく消沈していたお町内が、ここ数年、若い世帯、子ども達も増え賑やかになりました。地蔵盆も盛大で、子どものパワーは本当にすごいですね。
 朝の早い時間なら門掃きのお付き合い、登校、出勤時分のご挨拶、夕方にお会いする方などそれぞれの係わりがあります。そんなお付き合いが京都の街の中にまだまだ残っているように思います。隣の家とくっ付いて建っている、怒鳴り声や笑い声が筒抜けの町家が、ご近所と寄り合い、係わりあう、そんな生活文化を創っているようです。
 いつまで、このお家にお世話になるかわかりませんが、楽しんで暮らしたいと思っています。

2011.7.1