聞き手:聞き手・大前温彦(オークライフ株式会社)
――町家に住もうと思われたきっかけを教えてください。 (夫 利洋)京都に転居してくる前は米国で12年程暮らしていたのですが、現在の日本を客観的に眺めているうちに利便性と経済性を追求し過ぎた無国籍的な暮らしよりも、昔から続いてきた文化を尊重し楽しみながら生活する方が良いのでは、と思うようになりました。京都に移ってからはリノベーションされた古ビルの一角を住居兼事務所としていましたが、町家で仕事・生活をしたいとは漠然と考えていました。また、絵付け師として現在働いている妻も日本の文化への意識は高く、自然と転居先としての町家を探し始めるようになりました。なかなか良い物件に巡り会えず困っていたところ、知人を通じて参加させて頂いたリノベーション町家の内覧会で京町家情報センターについて教えて頂きました。早速登録し、しばらくして参加した町家ツアーで訪れた五件のうちの一つがリノベーション中の状態の当町家でした。何か直感的に感じるものがあり、入居させて頂くことになりました。 ――o-labではどのようなお仕事しておられるのですか? (夫 利洋)o-labでは主にプロダクトデザイン、ブランディング、クリエイティブディレクションというかたちで様々な業種の企業とコラボレーションさせて頂いています。大手機器メーカーさんとのプロダクトデザインの企画もあれば、最近は中小企業さんとの日用品や家具の新ブランドの立ち上げにデザイナー、クリエイティブディレクターとして携わらせて頂くことも多くなっています。対象分野を限定せず、屋号o-labが表しておりますように何らかの心地良い「おぉ」を作り出す、ということを考えながら様々なプロジェクトに取り組んでおります。 ――町家にお住まいになられて何か影響を受けられたことはありますか? (夫 利洋)以前よりも古いものの良さを自然と楽しむようになりました。現在の町家は古い建具が使用されていて、ディティールなど見所がたくさんあり、照明器具などもアンティークなもの、逆に新しいものがどのようにしたら心地良く、時には面白く調和するかを試行錯誤する楽しみを通して、本業であるデザインのアプローチの幅も広がっているように感じています。最初はクライアントとの打合せを三畳の和室に置いた座卓を挟んでおこなうことに不安もあったのですが、実際はクライアントの方々にも喜んでいただけることが多く、人同士の物理的な距離が近い(笑)座布団の上での打合せはリラックスした雰囲気で行えることも多く、良かったなと感じています。 ――奥様も京焼の絵付師をなさっておられるそうですが伝統的なお仕事、伝統建築は何か共通点は有りますでしょうか? (妻 叶絵)絵付師としての感性を豊かにしてくれている気がします。畳や板の間を毎日歩き、土壁や大和天井に囲まれた生活をすることで無意識のうちに日本らしい自然の素材を身体を通じて感じることができています。あと、寒くなり始めてからはほぼ毎日着物を着るようになりました。体の軸を意識しながら着付けをし、帯を巻くとお腹や腰周りが温まります。以前住んでいた家では着物の袖がドアノブに引っかかったり不便に感じることもありましたが、現在の町家ではそのような問題もなく、日本建築での着物生活はとても心地良いものだと実感しています。現在も町家暮らしの中で色々と小さな発見がある毎日ですが、少しずつ意識と身体が変わってきているような気がしています。 ――先日ご相談いただいた町家住まいの洗礼はその後、いかがですか?天井裏の・・・ (夫 利洋)ある程度は想定していたつもりだったのですが、実際に経験するとかなりテンパりました(笑)。暖かい季節に登場するゴ○○○については私もかなり嫌いな方なのですが、妻がそれを上回って嫌いなので仕方なく私が前線に送られ、対応しています…。最近は小さな蜘蛛がいたらもちろんそのまま屋内に滞在していただき知らないうちに敵を退治していただくようお願いする、といった新たなコラボレーションも生まれております。屋根裏に聞こえる小刻みな足音についても最初はかなり動揺していたのですが、大前さんに教えていただいた情報などを基にネズミかイタチかを判別できたと思っているようになり、ひとまずハーブ系の煙を使用した製品で対応しておくことで「もうこれで現れまい」と無理矢理思い込んでとりあえず深く考えない、という思考法も覚え、頑張って鈍感力を鍛えているところです(笑)。 ――お住まいになられてもうじき1年ですね。町家に住んで感じられたことは? (夫 利洋)楽しさ、厳しさの両面で以前よりも遥かに季節感を感じる生活を送っているなと感じます。普通に都会的な生活をしていると気付かないようなあたり前のことに気付かされることも多く、ビルやマンションの中で生活するのが当たり前になってしまうともったいないなとつくづく感じます。また、当町家は杉やヒノキの無垢材を使用した床も多く、建具も含めて常に木に触れながら生活することができているのが嬉しいです。 町家に住んでみて、日本には知らない間に失われていってしまっているものがかなりあると実感していますので、このような町家生活を経験している上で「良い」と考えるモノやコトの提案を本業でもおこなっていきたいです。 町家を120%感じて暮らしていただけるお二人に合格点をいただき、このお家はこの先もずっと時代を重ねて行ってくれることと思います。 2015.1.1
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