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京町家情報センター
京町家に移り住んで──井上邸

今回は、四条高倉からすぐの都会の喧噪を忘れさせる路地奥の改修された町家。生まれて間もない赤ちゃんとご夫婦3人で、住んでいらっしゃいます。
<聞き手:株式会社ふじ 小西 鋭>

――1、町家に住まれるきっかけは?
 大学院生の時に京町家調査に携わっておりました。調査結果をまとめるなかで、町家が店舗や住宅として残される一方で急速に減少している状況を目の当たりにし、町家に関心を持ちました。
 町家の特徴や保存のあり方などについては勉強していたのですが、自分と同世代ぐらいの方から実際の住み心地を知りたいと思い、妻の友人宅の町家を見せていただきました。従来の建物の良さを活かしながらリノベーションが施されており、とても住み心地がよさそうで、町家に住もうという気持ちが強くなりました。

――2、実際の住み心地はどうですか?
 町家は「夏は暑く冬は寒い」ということは十分理解していたのですが、お風呂に入っているとどんどんお湯が冷めていくのに驚きました。エアコンが苦手なので、ペレットストーブで家全体を暖めて、寝室では湯たんぽを使っていました。夏が近づいてきましたが、風通しがいいので窓を開けると気持ちのいい風が入ります。今のところ、特に暑いと感じません。季節の変化を肌で感じられる生活が魅力的です。今年の夏は扇風機と緑のカーテンで過ごす予定です。また、大家さんのご厚意で庭を自由に使わせてもらっています。土と緑と虫がいる生活はさらに季節を感じさせてくれます。
 現在9ヶ月になる子どもがいるのですが、床が木と畳でフラットなので、安心して子育てができます。遊びに来た人達も、裸足で気持ちがいい床に注目しています。みなさん、「おばあちゃんの家に来たみたいだね」といってくつろがれます。

――3、作事組の改修工事についてはいかがですか?
 木目がきれいでしっかりとした従来の柱を活かしながら、現代の生活スタイルに合わせたリノベーションがされている点がとても気に入っております。天井が作り直されているのですが、もともと屋根から明かりを採っていた部分の良さを活かすため、そこだけ天板で蓋がされておりません。そのため、天気のいい日は照明が要らないくらいです。このように従来の町家の暮らしの工夫が随所に取り入れられています。
また、改修された洗面所やトイレにも木がふんだんに使われております。文章で読まれていると、従来の木と新しい木が合わさってちぐはぐになってしまうように思われるかもしれませんが、そうならない組み合わせ方で仕上げられる作事組さんに魅了されました。

――4、路地での暮らしはいかがですか?
 自動車を持っていないので、日常の移動は公共交通と徒歩です。そのため、公共交通機関の便利な都心部に住んできました。大通りに面していたところに住んでいた頃は、夏場に窓を開け放しておくと、深夜でも車やバイクの音に悩まされていました。逆に、駐車場の必要がないので路地での暮らしは私たちにとって好条件でした。引っ越して初めての晩、まちなかとは思えないほどの静かさに驚きました。子どもの夜泣きでご近所の方々に迷惑になるのではないかと心配したくらいです。
 新年に町内の集まりで、近所の方々にご紹介いただいたのですが、「赤ちゃんなんて何年ぶりでしょう」「赤ちゃんは泣くのが仕事よ」と、温かく迎えて頂いたことがとても嬉しかったです。路地は災害時の避難経路の確保が懸念されていますが、隣近所の顔がお互い見えることや、みなさんから親切にして頂いており、いざというときはコミュニティの力で助け合うことができるという自信につながっています。

――5、町家暮らしをアピールするならどんな点ですか?
生きている建物で生活できるという点です。ちょっとしたした晴れ間や通り抜ける風に暖かさや涼しさを体感する暮らしができます。建物自体の魅力の他に、地域の方々との関係も町家ぐらいの良さと考えています。近所の方の顔が見えるというのは、子育てするうえでの安心感につながっています。町家は子育て世代の方々におすすめしたい暮らしです。

2015.9.1