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京町家情報センター
京町家に移り住んで──木田邸

<聞き手:聞き手:井上信行(エステイト信)>

--なぜ町家に住みたかったか
 単純には、興味があったから、ということに尽きるかもしれません。
 私達は、私の妊娠をきっかけに、それまで住んでいた大阪市から、夫の職場と実家のある京都市に引っ越し、西陣の町家(四軒長屋)に暮らし始めて3年が経ちました。
 夫婦共に学生の頃から、町家や古民家を改修して住むという人や、その現場に遭遇する機会はたくさんありましたので、京都に住むのなら一度は町家に住んでみたいという気持ちがありました。また、子供にはできるだけ多様性があって自由度の高い環境や空間を体験させたい、住む土地ならではの住まいで子育てをしたい、という考えがあったのも京町家に住みたいと思った理由のひとつです。でも、そうは言っても、通り土間があってトイレやお風呂が離れになっているような「本格的な町家」に住むことになるとは、実はあまり想像していませんでした。

--実際に住んでみてどうか
 夏は涼しく、冬は寒い、というのはまさにそのとおりでした。
 毎年、暖かい日が増えてきた時の、春を迎える喜びと冬を乗り切ったという安堵感はひとしおです。逆に、夏は想像以上に涼しく、朝晩はもちろん日中もよほどの真夏日以外はクーラーを使わずにすんでいます。小さな子供の身体にとっても、いい環境なのではないかと思っています。
 また、我が家は「通り庭」をタタキ土間のまま残しており、台所の床をあげていないので、食卓との行き来が不便なことや、冬場に足元の冷え込みが激しいという難点はあり、住むまではそのうち改修しなければならないかなと思っていたのですが、一方で、水回りとその他の居住空間がこの通り庭によりしっかり分離されているので床下の湿気問題がないことや、調理によるにおいや油分を含んだ空気が室内に広がりにくいということから、合理的かつ衛生的だと感じていて、今のところはこの土間空間をとても気に入っています。ちなみに、食材の買い物から帰ってきて靴を脱がずにそのまま台所で調理をして、そのまま庭に出て洗濯物を取り込むなんていうことも主婦目線から無駄がなくていいなあと感じています。

--近所づきあいはどうか
 想像していたような難しいことはなく、今では、むしろご近所との関係により住まいに対する満足度が高まっています。
 通り庭には土足のまま人を招き入れることができるので、そこにちょっと腰掛けてお茶をしながら談話をすることもできますし、我が家は家の前の道に面した1階の「オモテの間」を居間のように使っているのもあって、家の中と屋外の公共空間との関係性や距離感は、想像以上に近く、これが意外に気に入っていることのひとつです。子供が生後数ヶ月でまだあまり外出できない鬱々としそうな時期、赤ん坊の泣き声を聞きつけて近所の子供が顔をのぞかせたり、移動販売の八百屋さんが来た時にご近所の奥様方が出格子越しに声をかけてくださったりしたことにもだいぶ救われました。こういうやりとりは、引っ越す前までは煩わしいものなのではという不安も大きかったのですが、皆さんお互いにとても気遣いをしながらほどよい距離感を保たれているので、結果として今のところは小さな子連れで住むのには想像以上にいい環境だと感じています。私たち隣近所は、昔から住まわれている高齢の方のお宅と、私たちのように京都や町家に興味があって他地域から移り住んできた子育て世代のお宅とが交互に混在しています。世代が違うと生活スタイルが異なるので摩擦が起きることもあるかもしれませんが、世代が違うからこそ補い合える部分もあるようで、家の内外共に楽しんで住んでいます。

2016.5.1