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京町家情報センター
佐藤邸

聞き手:西村 孝平(株式会社八清)

-- 京町家に住まれるきっかけは?
 あるとき京都の町家がどんどんなくなっていることを知り、それ以降町家関連の書物を見つければ目を通すようにしていました。次第に、京町家に対する関心がその度合いを強め、もっと深く知りたいと思うようになっていました。
 仕事の一線を退くことになったときに、余暇を使ってその想いに取組むことを決めたのですが、知人からは「机上の空論では駄目で、京町家のことを知りたいなら住んでみないといけないのでは」との意見をいただきました。それも一理ありと思い、明治末期に建てられた町家を購入、改修して住むことにしました。

-- 実際に住んでみた感想は?
 まず結論を申し上げますと、予想以上に快適な暮らしができています。改修は、老後も住みやすいようにすることと、元の町家にいつでも戻せることを原則としました。この原則に沿って改修した主なところは、トオリニワの床を上げシステムキッチンに、ミセニワの沓脱石を使い易い高さに、階段の傾斜を緩やかに、広めのお風呂と2階にもお手洗いを設置したことなどなどです。
 町家の特徴であります土壁、畳、障子・襖、木製窓枠・引き戸に囲まれた生活は、高断熱・高気密を目指した現代の住宅とは真逆のものですが、室内の空気を柔らかく感じることができますし、また人工的な建築材料にはない土・木・紙からくる自然の香りに包まれる心地よさを得ることができます。ただし、冬場のすきま風対策には、エアコンの力を借りないといけませんが・・・。
 また、オクノマから見渡せる前栽があります。小さい庭ですが、春には鮮やかな緑を、夏には樹の生命力を、秋には紅葉を、冬には雪景色をと、移りゆく四季を堪能させてくれます。その庭では、蝶々や蜂、メジロ、ヤマガラ、セキレイ等の野鳥や、ヤモリも見かけます。ハツカネズミも出没したこともありましたが、庭の塀の上を猫が巡回してくれるようになってからはネズミは姿を消しました。小さい庭でも、自然のバランスが取れているのかもしれません。

-- 地域の方とのお付き合いは?
 入居早々にご近所の方がやって来られ、ゴミの出し方等を教えていただきました。京都市のゴミ出しには有料の専用袋を使いますが、当座の間に合わせにとご厚意で専用袋も持参いただきました。このようなことはこれまでに住んでいた京都以外の町ではなかったことで、非常に驚いたことを覚えています。
 都会では挨拶をしても返事が帰ってこないことも多くあり、ご近所の方の顔もわからないという方も多くおられます。しかし、それはどこか遠い国のことのようで、京都の町家住まいではあちこちで挨拶が交わされています。深いお付き合いがなくても、笑顔で挨拶を交わし合うだけでお互いが気持ちよく暮らすことができるということを体感しています。
 また住んでいます町内会では、拍子木を打つ夜回りを持ち回りで年中行われています。今は拍子木の音や掛け声を騒音だという方もおられるようですが、その音は安心感とともに何故かやすらぎももたらしてくれます。自身で夜回りをしてみれば、地元愛も芽生えます。すれ違った方から、「ご苦労様」と声をかけられたりすると、心が温まったりするものです。

-- 京町家をお探しの方にアドバイスを。
 京町家に精通した不動産会社に、しっかりと相談にのっていただくことに尽きると思います。特に町家を購入される方は、不動産という高い買い物をされるわけですから、不動産会社の選出は重要になってきます。京町家は、明治時代から昭和にかけて建てられており、築年数は色々ですし、行われてきた建物のメンテナンスや住まわれ方も千差万別ですので、様々な状態の町家が存在します。希望する条件に見合った物件を見つけるためには、プロの力をお借りするのが肝要かと思います。
 さらに、町家はしっかりとメンテナンスを行うことで、100年以上も住めることが実証されていますので、気安く相談できる町家大工の技術を有する工務店を見つけることも大事なことだと思います。


2017.11.1