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京町家情報センター


(3) 男の居場所
 いつのころからか、家がお母さんと子供たちの支配する空間で満たされるようになり、お父さんは夜遅くに帰って、寝るだけの居場所しかなくなってしまった。
 奥さんからは「遅くまで大変ね」といわれながらも、しょせん「元気で留守がいい」わけだし、子供たちからは「ダサイ」とか「クサイ」とか言われることもあるらしく、これではお父さんは家へ帰る気にもならないのも、うなずける気がする。
 しかしそうすると、ますます家はお母さんと子供たちの家になってしまう。家の中に居場所が欲しい、書斎がほしい。これが男どものささやかな願いなのだが、なかなか実現しない。
 たとえ実現したとしても、奥様方に書斎の所在を聞くと「ああ、あの物置のこと?」なんてことになる。それでもほしい!一人きりでこもることのできる空間が欲しい。父の日になら、夢がかなうかも知れない。
 こもるためには小さいほうがいい。屋根裏部屋、北向きの小さなコーナー、こんなところがかえって良い。少し温度が低めのほうが、頭の働きは良くなるような気がする。
 またコーナーとして考えれば、昔から床の間の横などによくある書院(付書院)という出窓風のものがある。あの形をそのまま生かしてやれば、落ち着いた書斎コーナーになる。
 ただし、現代のわれわれに合わせるには二つの点でアレンジしたい。ひとつは日本人の身体が正座より椅子に腰掛けることになじんでしまったこと。しかし畳の感触は捨てがたい。疲れたらそのままゴロッとできるのもいい。そこで掘りごたつ型にして、足を入れられるようにすると、具合がいい。
 もうひとつのアレンジは電気のコンセントを設置しておくこと。これはパソコンやタスクライトをはじめ、電気を欲しがる文具が増えてしまったため。
 こうしてアレンジした書斎を、ことあるごとに作ってきたけれど、父の日のささやかな願いは、今もちゃんとかなえられているのだろうか。
(2011.6.19京都新聞掲載)