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京町家情報センター


(10) 炭は太陽
 暑いときに熱い話題で申し訳ないが、今回は炭の話。炭を焼くというのは、実に不思議なことをしているもので、木を普通に燃やしてしまうと灰と炭になるが、これはいわゆる「消し炭」であまり役に立たない。
 しかし、火をつけてある程度したところで、酸素の供給を極端に減らして蒸し焼きにすると炭ができる。木はもともと光合成で太陽のエネルギーを取り込んでいる。
 6CO2+12H2O+688キロカロリー→C6H12O6+6O2+6H2O
 要するに二酸化炭素と水と太陽エネルギーが、光合成でブドウ糖と酸素と水になっている。この中の炭素を取り出すのが炭を焼くということで、結構むずかしい芸当をやっていることになる。  これを炭になってから改めて火をつけると、
 C+O2→CO2+94400キロカロリー
 と熱エネルギーを出す。
 こいつを炭素の中に閉じ込められていた太陽エネルギーが、炭を燃やすことによって放出される。と見なすとおもしろい。そうすると炭の赤々と燃えている熱や光は、太陽のエネルギーそのものということになる。だから炭で沸かした湯でお茶を入れるとおいしいし、小芋をことこと炊いてもむちゃくちゃおいしくなるのだ。
 炭火を熾(おこ)す手間、最後の火の始末、火力のコントロールがままならないという点は、ガスや電気、電磁調理に比べて確かに不便ではあるが、そんなことと比べ物にならないほど炭火で調理したものはウマい。
 しかも炭を焼くというのは、電気やガスを作るときのように、深い所から掘り出して、遠い道のりを運んでくることもなく、原子力のように大層な安全装置を幾重にも設置してもなお、負のツケを将来に残す心配もない。
 毎年毎年、木が太っていくのを少し間引く程度で十分だし、炭を作るのにかかるエネルギーも、炭焼きをする人間の腹が減るだけで、エコロジカルな点でも、エネルギーの無駄使いという点でも全く問題ない。
 こんないいものを使わないテはない、と「住まいの工房」の1,3メートル四角の打ち合わせテーブルの中央には、炭を使う提案のため炉を切った。炭の火の人を引きつける力はすごい。まるで太陽のようにこれが人を呼び、ついでに酒も呼んでしまった。ああ、打ち合わせにならない!

(2011.8.7京都新聞掲載)