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京町家再生研究会
京町家再生研究会 活動報告

公開シンポジウム2018 京町家新条例の適切な運用を考える
−町家をこれ以上壊さないために― 報告



 「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(以下、京町家新条例)に関しては、要望書の提出以来、都度、公開シンポジウムを開催してきました。3回目となる今回は、本来の目的や背景が一般市民のみなさまには十分に伝わっておらず誤解が生じていることを踏まえて、条例のポイント、良い仕組みにしていくために必要なこと、そして民間組織として、あるいは一般市民としてなにをすべきか、を確認する機会といたしました。
 まず、京都市から鈴木章一郎都市計画局長に京町家新条例の経過報告をしていただきました。条例の目的はあくまでも京町家を保全して再生することであり、所有者や住み続ける人々をサポートする仕組みを作る必要性が強調されました。また、地区指定のあり方について、これからの方向性を示していただきました。
 次にデービッド・アトキンソンさんより、京都が京都でなくなるとどんなことになるのか、町家がなくなることは京都にとって自殺行為、という危惧が語られました。高田光雄先生からは、新条例の真の目的は生活文化の継承にあることが強調されました。一戸の解体を止めることだけではなく、町全体として考える必要性を説明し、規制の考え方を整理していただきました。小島富佐江理事長からは、現実にまちなかで起きている急激な変化をスライドで紹介しました。町家が一つ壊れることにより、地域社会にどのような影響を及ぼすことになるのか、みなさんにもご理解いただけたことでしょう。西村孝平さんからは、不動産業者がプロとして値段をつけられないほど、京都市内の地価が高騰している現状と、まちなかの物件が高くなると居住ができなくなってしまうという危機感が語られました。宗田好史先生からは、ヨーロッパの事例を踏まえて、人口減少社会において歴史的都心部の未来をどのように考えていくのか、町家を残した方が土地の価値は上がり、京都市も良くなっていくことを自覚すべきである、という主張がなされました。
 パネルディスカッションでは、いくつかのテーマに沿って各パネラーがそれぞれの専門分野から意見を述べ、検討していきました。今回は、登壇者それぞれの主張や提言の骨子を紹介します。テーマ別の論点については、次号で紹介する予定です。

<丹羽結花(京町家再生研究会)>


京町家新条例施行の概要 鈴木章一郎


 京町家新条例の一番の肝は、「所有者の困りごとをどのようにサポートできるのか」にある。解体に至る前に保全継承に向けた支援をおこなうマッチング制度を検討している。いろいろ考えても保全継承につながらないので止むを得ず解体する場合は届ける、というのが条例の仕組みであり、罰則がメインではない。壊す前に、一旦立ち止まって、京都市に教えてほしい、ということである。
 すべての京町家、40,000軒全体が対象であり、指定の段階により支援を手厚くしたい。指定の方法としては個別指定と地区指定の2種類を検討しており、その他は努力義務となる。地区指定の考え方には、2つの道筋があり、一つ目は、京町家として大切にしないといけない要素が残っているものが対象で、通り、町単位で趣のあるところなど、残状状況を把握して指定を検討するもの。二つ目はどれだけ地域の方が一生懸命残そうという意欲を持っているのか に応じて指定し、地域の方が手を挙げることを考えている。「意欲」を注目しているのは、埋もれている京町家も含めてこれからよくしていく、という考えからきている。


本質を見極める デービッド・アトキンソン

 京都は一部のご都合主義により、利便性を求めて、京町家というせっかくの宝物を無責任に壊してきた悲しい歴史がある。観光客が来て「どこが京都なの?」という気持ちになってしまってよいのか。京町家が一つもない町になってよいのか。なぜ京都に人が来るのか、徹底的に真剣に考えないといけない。これ以上京町家を壊すのは自殺行為である。
 所有者の大きな問題は、「お札に興奮している人たち」。購入した時より地価が上がっており、いきなり数字を出されると所有者も売ってしまうのだろう。ホテルの議論も、所有者が土地を売らなければ、事業者はホテル用地を買えないのであり、売るのは、結局はもうけがあるからである。
 問題の本質は建ぺい率、容積率、高さ制限にある。壊すとより高いものを建てることができるから、坪単価が高くなっている。食や神社仏閣が残っても、生活文化や京町家、町並みが壊れてしまえば、京都にはごく一部の人しか来なくなるだろう。
 「私のものがなくなってもいいんじゃないの?」という町家所有者もいるが、町並みに支えられてもうけが出ていて、自分の年金に回って来ることを自覚してほしい。
 京町家がなくなっていくことは、自分の寿命を削っていくことだと自覚してほしい。本格的にこの町を守りたいと思うのであれば、メインの通りに面していないところの建ぺい率、容積率、高さ制限をどんと下げればよい。所有権を強調する人は結果的にお札をなくすことになる、という本質的なことを考えるべきである。責任を持って何が本質か、見極めていかないといけない。


まちレベルでの生活文化の継承 高田光雄

 京町家新条例については誤解もあるようなので、整理も含めて説明したい。(詳しくは京町家通信118号巻頭言「既存京町家の保全・継承にむけた地域まちづくり活動への期待」を参照のこと)
 京都の誇り、魅力を京都市民はどのように感じているのか。長年培ってきた生活文化をどのようにみているのか。軒が揃い、ケラバを重ねる京町家には、価値観の違う人たちがまちを維持してきた文化が蓄積されており、それが表れている。これを次の世代にどのように受け継ぐのか。新しく入ってきた人に伝えていけているのか。自分自身も振り返って反省している。多くの京都市民にそういう気持ちをもってほしい。
 新条例については、これからもっと育てていかなければならない。何のために京町家を残すのか、ということが大切。ペナルティは規制を成り立たせているだけで、条例の目的ではない。市民がルールの意義を共有することが大事。町家の解体回避は必要であり、その目的は生活文化の継承、発展にある。
 一戸一戸の敷地ではなく、まちとして考える。地域社会の中で人が生活していることを考えるべきであり、まちレベルの仕組みを構築していくことが重要である。


急激なまちの変化 小島富佐江

 町家だけ守ればいいのか、ということになりがちだが、まち自体が健全で、安心安全で楽しく暮らしていくことが必要となる。再生研の設立当初から点から線、線から面、一つの町家から連担したものへ、それが地域として広がる保全再生をしていきたいと考えてきた。まちなかの激変を緩やかな形で、みんなが安心して変化を受け入れていけるような条例になることを望む。
 ごく最近の町の状況を紹介すると日々どこかで解体がおこっている。今、歯止めをかけないとまちのなかの様子がまったく変わってしまう。ホテルのファサードは町家風だが、本来の生活感が感じられなくなる。ファサードはきれいになったけれども生活感のないまちができあがると危惧している。
 ホテルがいいとか悪いとか、ということではない。新しいものも必要だとは思う。ただ旧来のまち、町家が惜しげもなく壊されて変わるとき、立ち止まって考えたい。町家を規制するために条例を作るのではなく、何か起きたとき、みんなが応援できる体制を作ろうというのが新条例の趣旨だと考えている。手放すときには安心して相談できる場を作ろう、ということ。そのための議論をしていきたい。


不動産の現状 西村孝平

 まちなかの物件が高くなると居住よりも事業に向いている物件になってしまう。事業はうまくいかなくなったらとたんにしぼむので、本当は居住用物件ベースで考えた方がよい。外国人が経営している不動産会社もあり、地元の富裕層に京都の土地を紹介しているところもある。自社物件でも町家の取り扱いの2割弱は外国人が購入する。外国人は事業を展開することが難しいので、別荘が多い。
 大型町家の有効活用を考えないといけない。20坪の町家は簡単だが、100坪をこえるとたくさんアイデアのある人はいない。活用の仕方をしっかりレクチャー、アドバイスしないと誰も買ってくれない。
 居住を考えるとセカンドハウスという選択もある。東京の方がセカンドハウスローンを組めるように金融機関に融資を呼びかけないと難しい。
 簡易宿所はどんどん厳しくなるだろう。駆け込みの要件を要求されており、クリアできるかどうかわからない。これで土地の値段が下がるかもしれない。ホテルも建ち過ぎており、この条例をピークに需要が下がり始めるのではないか。  まちの真ん中で住むなら路地しかないが、改修がしにくい。接道していない非道路の改修をもっと緩和してほしい。路地の耐震性を担保に大幅な改修ができると都心居住がもっと進む。連担建築設計制度を利用した大規模改修を認めるなど、なんでもいいので合法的にできることを考えて欲しい。


歴史都市としての将来 宗田好史

 1967年、イタリアの「橋渡し法」では、歴史的都心部は現状よりも容積率を一切増やしてはダメ、建て替えもダメ、売買も市に届けろと規制した。イギリスの歴史都市でも、1960年代、歴史的市街地を守ろうという動きがあった。ヨーロッパの経済成長が一旦止まって、人口増加が止まったことも影響している。特にイタリアやドイツは人口が増えなくなったので、郊外開発を抑えて、人口も都心に戻りつつあった。誰がこの国の経済を支えるのか、というとき、ソフト、第三次産業、それも観光産業を主軸にすることに舵を切ったのがヨーロッパの歴史都市。
 京都はこの25年間、これを目指してきた。2007年の新景観政策では、高さ規制が厳しくなると地価が下がると言われたが、事実としては下がらなかった。現在、町家を残しておいた方が京都の価値は上がる、という事実が、ようやく京都でも一般的にわかるようになってきた。
 私たちの子供の時代になったときに、職業や家業がどうなるのか、持ち家がどうなるのかということを疑問視する必要がある。京都という永遠の都で、自分と自分の家族が文化を守っていくために、町家を手放して、流通させるというような考え方にシフトしなくてはならない。いま残っている町家の多くにも、家族が建てたのではなく、誰かから譲り受けて守っているという歴史があることを自覚すべきである。


◆実施概要

日時 2018年6月16日 14時から17時
場所 京都文化博物館 別館ホール
登壇者(五十音順)

デービッド・アトキンソン(京町家友の会会長、小西美術工芸社)
小島富佐江(京町家再生研究会理事長)
鈴木章一郎(京都市都市計画局長)
燗c光雄(京都市京町家保全・活用委員会会長、京都美術工芸大学教授)
西村孝平(株式会社八清、京町家情報センター)
宗田好史(京都府立大学教授、京町家再生研究会副理事長)

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